ベトナム:社会保険法改正草案⑵
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
ベトナム弁護士 Pay Thi Dung
3 社会保険料の算定基礎となる賃金の下限・上限
前回、社会保険料の算定基礎となる賃金に含まれる手当等とその変更点について解説した。算定基礎賃金には法定の下限額と上限額があるが、改正草案ではこれらにも変更が加えられている。
現行法では、社会保険料を算定する基礎となる賃金は、下限は各地域の最低賃金と同額(地域によって3,250,000VND~4,680,000VND)、上限は公務員等の基本給の20倍の金額(現時点で1,490,000VND x 20 = 29,800,000VND、2023年7月1日以降は1,800,000VND x 20 = 36,000,000VND)とされている。
しかし、ベトナム共産党中央執行委員会の2018年5月21日付決議第27-NQ/TW号により、公務員等の基本給制度は近い将来廃止されることが予定されている。これに沿って、改正案では、上限額を36,000,000VNDに設定し、あわせて、下限額も地域によらず一律に2,000,000VNDと設定している。これらの上限額・下限額は、将来的には、消費者物価指数と経済成長の状況に基づいて政府が調整を行うことが提案されている(改正法案第37.1条)。
下限額は大きく引き下げられたが、これは、前回述べたとおり、下限額以上の賃金を受領するパートタイム労働者について社会保険の加入対象とするという意味を持つ。他方、政府の調整については、現時点では頻度等は不明であるが、現在でも最低賃金や公務員の基本給は毎年改訂されており、改正草案での上限額は本年7月以降の現行法における上限額と同額ということになるので、現在と大きく変わることはないように思われる。
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018~2020年、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。日本にお
(ズン・パイ)
2014年Hanoi Law University (L.L.B)及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業。2017年名古屋大学大学院法学研究科修了。2017年11月に長島・大野・常松法律事務所のハノイオフィスに勤務。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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