◇SH3258◇弁護士の就職と転職Q&A Q126「転職活動で『聞かれたことに答える』という受け身姿勢は何が損か?」 西田 章(2020/08/03)

法学教育

弁護士の就職と転職Q&A

Q126「転職活動で『聞かれたことに答える』という受け身姿勢は何が損か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 旧司法試験世代の就活には、今では信じられないようなエピソードがあります。私がもっとも驚いたのは、修習生が、面接のアポイントを貰った事務所と名前が似ている別の事務所を誤って訪ねてしまったにもかかわらず、飛び込みで面接をさせてもらって、「面白い奴だ」ということで内定を得た、という話です。極端な事例ではありますが、「お作法/マナー」を重視しすぎる新司法試験世代には、学ぶべき点があるような気がします。

 

1 問題の所在

 法律事務所の採用選考は、事務所を訪問して、気が合ったら、そのまま会食に行く、というスタイルが主流でした。オンラインで行う面接は、候補者が海外留学中のような例外的な場合に限られていました。それが、新型コロナウイルスの感染症対策のため、現在では、採用面接も(少なくとも一次面接は)オンラインで行うことが一般的になっています。そこで、「若い世代の弁護士の淡白さ≒面白味のなさ」が指摘されることが増えています。

 リアルに事務所を訪問したならば、オフィスの物理的な雰囲気も感じながら挨拶からスタートして、小一時間程度の面接時間内で、面接官との間で、自分の生い立ちや趣味趣向も含めた、一見、採用選考と関係がない「無駄話」をする機会にも恵まれました。それが、オンライン面接になったため、一問一答的な質疑になり、「話題が切れたら、面接終了」として、無駄話もできないままに、30分以内で面接が終了する傾向があります。転職者の側でも「粗相なく面接を終えたい」という減点主義的発想が強いために、自ら余計な話題を持ち出すこともなく、「聞かれたことに答えて終わり」として、短時間で面接を終えてホッとする人が多く見られます(例えば、「自分の親が上場企業の役員(又は中央省庁の幹部)である。」といった材料があっても、「聞かれなかったから」という理由でこれを使わずに面接を終える人がいます。もちろん、「親の職業で自分を判断されたくない」というポリシーならば立派なのですが、採用側からこれらを質問することは不適切なので、事実上、検討材料に加えてもらうことを希望するならば、自分からさりげなく提示する方法を工夫しなければなりません。)。

 昨年までの売り手市場とは異なり、コロナ禍により、採用ニーズが減少した不況下においては、「無難に面接が終わる≒特に見るべき点がないと判断されて採用を見送られる」という結果に終わりがちです。そのため、「お作法/マナー」に縛られることがない工夫が求められています。

 

2 対応指針

 大学受験や資格試験と異なり、法律事務所の採用は、公平な選考ではありません。一見して事務所に貢献してくれそうな候補者に対しては手厚く丁寧に勧誘を行いますが、それ以外の候補者に対して「隠れた才能や経験がないかどうか?」を精査するために手間暇をかけてくれるわけではありません。

 新卒採用で重視される項目(学歴、予備試験に合格している場合はその順位、司法試験の順位、英語力を示す外部試験の点数等)は、ジュニア・アソシエイトの採用においては依然として有効です。これらで卓越した数値を示せるならば、採用側が真剣に選考してくれることを期待できます(他にアピールすべき事項を広く探る必要は特にありません)。

 学歴や成績で卓越した点がないならば、「一芸入試/自己推薦入試」的に、独自のアピールポイントを探るべきです(すべての法律事務所に通用する絶対効がなくとも、法律事務所のボスの経歴やクライアント層との関連において、「ご縁」を見出してもらえる事実を探ることになります)。面接でアピールするためにも、予め提出する履歴書または職務経歴書に(志望動機に絡めるなどして)その概要を記載しておくことが望まれます。

 

3 解説

(1) 採用選考の不公平性

 旧司法試験世代が、新司法試験世代に対して抱きがちな不満の典型例のひとつに、「試験ばかりを受け続けてきたために、制度として御膳立てされていないと自分からは何もできない」というものがあります。実際、若い弁護士は転職活動に対して「採用選考に必要な情報で足りない点があれば、採用側が聞いてきてくれるはず」との期待を抱いています。確かに、旧司法試験における口述試験のように、9割方が合格する試験であれば、「余計なことを伝えずに、聞かれたことにだけ答えて、悪目立ちしない」という対策がベストです。

 しかし、現実には、採用側には、「応募者の良い点を発掘しなければならない義務」があるわけではなく、「ざっと見て、特に『光る点』がなければ、見送り」という判断を招くだけです(上場会社であれば、「公平な選考」への期待もありますが、個人事業の延長線上にある法律事務所に対しては、そんな期待も抱くこと自体が難しいところがあります。実際、多くの法律事務所は「採用を見送ったからといって、落選者の人格や能力を否定したわけではない。うちで活用余地が見当たらないので、他で活躍してもらいたい」という発想をしています)。そのため、「主張立証責任は、応募する側に課されている」と考えておくべきです。

(2) 学歴・成績面の優秀さのアピール

 新卒の採用選考においては、大学や法科大学院の成績、予備試験・司法試験の結果についても、入手可能な範囲で提出することが通例となっています。新卒採用は、大量の応募者を横一線に並べて審査することが求められます。また、面接に呼べる人数も限定されることから(少なくとも昨年までは「面接=対面」を原則としていたので)、学歴や成績で足切りを行うことが一般化してきました。

 中途採用においても、特に3年目以下のクラスにおいては、「学業成績の良さ」は、「優秀なジュニア・アソシエイトとしての資質」を推認させる指標として有効であると考えられています。そこで、もし、「司法試験の合格順位が二桁以内」とか「法科大学の首席卒業」などの卓越した成果を挙げているならば、転職エージェントが作成した履歴書または職務経歴書の書式において、それらを記載する項目がなかったとしても、自らこれを追記するほうが有利です(企業法務系法律事務所のアソシエイトの中には、司法試験の合格発表前に就職活動を終えている者が大勢いるため、就活に司法試験の結果を活用する、という発想を持っていないことがあります)。

 また、転職エージェントが作成した雛形において「英語力」を示す項目が設けられている場合に、TOEICやTOEFLの点数に自信があれば、もちろん堂々と記載すればよいのですが、これが自慢できる水準にないにもかかわらず、問題意識も持たずに、その点数をそのまま記載している人も見受けられます(「英文契約書の作成やレビューも経験があるため対応できます」と記載している書面で、TOEIC/TOEFLの低い点数を併記すると、逆に説得力が損なわれます)。求められる英語力は、法律事務所のクライアント層や業務分野によっても区区ですので、エージェント作成の書式に囚われることなく、「応募先に対してアピールできる項目を目立たせるようにする工夫」を意識すべきです。

(3) 「一芸入試/自己推薦」的アピール

 前記 (2) のとおり、新卒採用では大量の応募者と競合するために、学歴・成績等の定量的な指標による相対評価が先行されてしまいがちです(統一フォーマットのエントリーシートで横並びに比較検討されます)。これに対して、中途採用では、「一斉に、大量のエントリーが来るわけではない=ひとりひとりの応募書類をじっくり読むことができる(応募者の個性に着目した審査をしてもらいやすい)」という側面はあります。

 社会道徳的には、親の職業を選考で考慮することは不適切だと考えられていますが、例えば、ヘルスケア業界に強い法律事務所において、親族に「厚生労働省の幹部」とか「医薬品会社の役員」がいる応募者が来た場合に、「こいつは、この業界に馴染みがあるから(他のアソシエイトに比して)スピード感をもって、業界の相場感に沿ったリサーチや分析ができるかも」「クライアントとも人間関係を作りやすいかも」という期待を抱かせるものがありますので、「じっくり時間をかけて、これまでの経験に加えて、能力や人柄も審査してみよう」という対象に選んでもらえます。

 そのため、「聞かれていないこと」であっても、手厚い選考を受けるために有利な材料があれば、自ら積極的に開示することも検討に値します。もっとも、面接で、唐突に「実は私の親は・・・」と切り出すのはあまりにも不自然です。また、それをアピールする機会を得る前に、書類選考で落とされるリスクも存在します。これを避けるためには、履歴書等の志望動機欄において「私は、父(厚生労働省の役人)から医薬品や医療機器の安全性に関する規制について教えてもらって興味を抱くようになり、将来はこの分野の専門家になりたいと考えている」「貴事務所は、ヘルスケア業界からの信頼が厚い事務所であるため、ここで修行させていただきたいと考えて応募した」など記載することなどが考えられます。

以上

 

タイトルとURLをコピーしました