◇SH2031◇弁護士の就職と転職Q&A Q52「なぜ面接対策マニュアルは役に立たないのか?」 西田 章(2018/08/20)

法学教育

弁護士の就職と転職Q&A

Q52「なぜ面接対策マニュアルは役に立たないのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 転職相談者から「面接では、応募先事務所への経路をどの程度まで詳しく回答すべきかも準備しておいたほうがいいですか?」との質問を受けて戸惑ったところ、SNSで「今日はここまでどのように来ましたか」という想定問答のNG例と合格者のOK事例が話題になっていたことを教えてもらいました。そこで、今回は、画一的な面接対策マニュアルが、法律事務所の採用面接では参考にしづらい理由を説明してみたいと思います。

 

1 問題の所在

 法律事務所の採用面接に際して、「先入観を持たずに、白地で自分を評価してもらいたい」と期待を抱いても、それは叶いません。面接は、履歴書・職務経歴書を前提として、書面に示された学歴・職歴を備えた実物についての確認業務が中心となるからです。

 人材紹介業者として設定する面接は、大別すれば、(A)書面上、事務所が求めるスペックを満たしていることが疎明されている候補者を対象とする場合(勧誘モード面接)と、(B)書面上は、事務所が求めるスペックを満たしてない疑いが残るが、「もしかしたら」を期待させる候補者を対象とする場合(発掘モード面接)の2つに分けられます。

 「勧誘モード面接」(A)においては、候補者は、「当たり障りのない受け答え」をするだけでも、面接官によるネガティブ・チェックを通過するので、残りの時間は「採用側から、当事務所の魅力を伝える」(=オファーを出したら、受諾してもらうための勧誘)という段階に移行します。

 これに対して、「発掘モード面接」(B)においては、候補者が「当たり障りのない受け答え」をしただけでは、「書面上の推定(スペック不足)を覆すような特段の事情は見当たらない」という確認がなされることになり、「面接時間の終了」は「採用見送り」という判断を導くことになります。

 そのため、「ハイスペックの候補者が、『勧誘モード面接』でどのような回答を行った結果としてオファーを得たか」という実例は、「非ハイスペック候補者が、『発掘モード面接』において、どのように振舞うべきか?」についての参考とはならないのです。それでは、「非ハイスペック候補者」は、どのような姿勢で面接に臨むべきなのか、が問題となります。

 

2 対応指針

 「発掘モード面接」を通過するためには、「書面上の減点事由についての事情説明」をした上で、「採用側が想定していなかった加点事由」を提示する「賭け」に出ることが求められます(「賭け」を避けて「当たり障りのない受け答え」に徹すれば、順当に「見送り」という結果を得て終わります)。

 「書面上の減点事由」の典型例には、「成績不振(司法試験の結果又は大学・大学院の成績)」と「短期間での再転職」が挙げられます。候補者の中は、「できれば、この話題に触れられたくない」として、想定問答作りを怠る人が多く見られますが、「書面上の減点事由を弁明する機会を与えてもらえる」のはチャンスであると位置付けるべきです。

 また、「採用側が想定していなかった加点事由」としては、実務経験の詳細の他には、海外経験、体力、人脈等をアピールすることが考えられます。面接でコメントする機会を逃さないためにも、履歴書又は職務経歴書において、その概要だけでも記載しておくべきです(業者指定の書式に捉われる必要はありません)。

 

3 解説

(1) 書面上の減点事由①(成績不振)

 司法試験の結果やロースクールの成績が悪いことについて尋ねられると、誠実な候補者ほど「真面目に勉強はしたが、残念ながら結果が伴わなかった」という情状面での弁明に主眼を置きがちです。しかし、紹介業者としては、「真面目に勉強したが、結果が伴わない」という弁明は、「基礎的な能力の低さ」又は「法的センスの無さ」を推認させてしまうことを恐れます。むしろ、「学生時代/受験生時代に、法律の勉強以外のことに時間を費やしていた」という理由を述べてくれるほうが、「基礎的な能力が低いわけではない」という抗弁を成立させる余地があると考えています。少なくとも「では、勉強をサボって何をしていたのか?」という点に面接官の興味を向かせることができます。

 「法律の学習よりも高いプライオリティを置いていたもの」としては、アルバイト、法律以外の勉強、スポーツ/部活動、恋愛、趣味等があり得ますが、これには、「正答」があるわけではありません。プログラミングに熱中していた、とか、スポーツに打ち込んでいた、とか、外国人の彼氏/彼女と付き合っていた、という弁明をしたところで、面接官に納得してもらえるかどうかは分かりません。それでも、「学生時代は、単位は取れればいい、司法試験は合格できれば十分と思っていたが、司法修習に進んでから、法律実務についての関心が芽生えた」という転機があったとして、その後に、実務で活躍した実績を示せたならば、「基礎的な能力の低さ」や「法的センスの無さ」の推認を覆すことができるかもしれません。

(2) 書面上の減点事由②(短期間での転職理由)

 一般的な転職マニュアルにおいては、「現職場の悪口を言うべきではない」という指導がなされています。確かに、弁護士業界も狭いために、採用してくれるかどうかもわからない外部の事務所の面接官に対して、不必要に、現事務所に関するネガティブ情報を広めるような行動は慎むべきだと思います。しかし、他方では、「実は、ボスからは、このようなパワハラを受けている」という具体的事実を伝えることにより、面接官から「そんな勤務環境でよく1年も我慢してきたね」と好意的な評価に切り替えてもらえるケースもあります。また、「依頼者が減って、事務所に未来がない」という経営状況を開示することにより、短期での転職が、候補者本人の問題ではないと理解してもらえることもあります。

 現事務所に対する最低限の礼儀としては、「書面には詳細を書かない」ということは言えるかと思いますが、面接に呼んでもらえたならば、「ここだけの話ですが」と前置きした上で、口頭では、転職の理由の詳細を語ることも検討してみるべきです。

(3) 採用側が想定していない加点事由のアピール

 採用側は、面接において「今、事務所で抱えている案件をきちんと下請けしてくれる能力があるかどうか」を短期的視点からチェックすると共に、「将来的に、依頼者を獲得して、事務所の発展に貢献してくれるかどうか」という中長期的視点から期待できるかどうかを探ります。

 「下請け能力」は、司法試験の成績が高いこと等により推認される法的センスも必須ですが、それに加えて、「長時間労働も苦にならない体力や気力がある」というのも、加点事由です(特に、現状でワークライフバランスを重視するアソシエイトばかりが固まってしまった事務所では、「ひとりぐらいは馬力があるアソシエイトが欲しいよね」という希望が聞かれます)。

 また、親族に上場会社の役員や中央省庁の官僚がいる、という人脈の豊富さについても、「将来の営業力」という視点からの期待を抱かせるものがあります。

 面接は、基本的には、採用担当者の司会進行で進むものなので、候補者の側にアピールしたい事項があっても、それに言及する機会を得られないままに面接が終わってしまうこともあります。「アピールしそびれ」を防ぐためには、面接において、口頭でアピールしたいポイントがあるならば、予め、その概要について、履歴書又は職務経歴書に頭出しをしておいて、「履歴書に・・・と書かせていただきましたが」と書面上の座標軸も示せるようにしておける方が無難です。

以上

 

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