◇SH3300◇ベトナム:投資法の改正② 井上皓子(2020/09/09)

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ベトナム:投資法の改正②

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 2015年7月1日に施行した現行投資法(以下「2015年投資法」)の改正法は、本年6月に国会で可決され、公布された(以下「改正投資法」)。2020年中は2015年投資法が、2021年1月1日以降は改正投資法が適用される。

 に引き続き、実務上重要と考えられる点について解説する。

(3) M&A登録

 既存のベトナム国内企業に対して外国投資家が出資し又はその持分・株式を取得する場合、M&A登録と呼ばれる手続きが必要となる場合がある。2015年投資法の下では、具体的には、①外国投資家等が、出資又は株式・持分の取得の結果、ベトナム国内企業の定款資本の51%以上を保有することになる場合、②定款資本の保有比率を問わず、外国投資家が条件付投資分野を行う企業等に投資する場合とされている。

 改正投資法では、②については維持された一方で、重要な改正が3点行われた。

 まず、①については、外国投資家の定款資本保有比率が、51%以上から50%超に変更された。

 次に、①に関するより重要な改正として、持分・株式の取得対象となるベトナム国内企業における外国投資家全体の保有比率が従前よりも増加しない場合は、M&A登録は不要とされた。つまり、当該ベトナム国内企業において、もともと外国投資家等が持分・株式を保有しており、その外国投資家等の持分・株式を別の外国投資家等が取得するのであれば、ベトナム国内企業における(一般的な意味での)「外国投資家等」の資本保有割合に変更がないことから、M&A登録は不要となった。

 3点目として、①②の他、外国投資家が、国境、沿岸地域、及び国家安全保障に影響を与える他の地域の土地の使用権等を所有する企業等に出資する場合について、新たにM&A登録が必要な場合として追加された。

 M&A登録に関する改正全体としては、外国投資家にとってM&Aを進めるうえでの手続きが簡素化されたと評価できるように思われるが、3点目の「国家安全保障に影響を与える他の地域」に該当する地域が特定されるまでは混乱が生じる可能性もある。

(4) 概 括

 投資法の改正を全体として見ると、投資方針承認やIRC取得、M&A登録等の手続きについて一定の簡素化が図られており、外国からの投資を積極的に受け入れようとする方向性であるように思われる。他方で、投資プロジェクトの申請・実施、出資や持分・株式取得にあたっては、国防・安全保障に危害が及ばないことが条件とされ、危害が加えられるおそれがある場合には首相が当該プロジェクトを停止する権限を有する旨の規定が追加されており、またその認定には広い裁量が与えられているように思われ、積極的な外国からの投資の誘致に伴い、国防上の懸念が憂慮された形跡が窺える。

 また、革新的プロジェクト等を支援する方針を打ち出し、社会経済開発に大きな影響を与えるプロジェクトには特別の投資優遇制度が新たに規定されるなど、社会に良い影響を与える先進的な技術・投資は積極的に支援していこうという意思も読み取れる内容となっている。

 

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