◇SH1721◇シンガポール:日系企業への国際カルテルに係る新たな競争法違反決定 長谷川良和(2018/03/23)

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シンガポール:日系企業への国際カルテルに係る新たな競争法違反決定

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 2018年1月5日、シンガポール競争委員会(Competition Commission of Singapore)は、シンガポールにおける国際カルテル事案として3件目となるシンガポール競争法違反決定(「本決定」)を発した。本決定は、日系企業のシンガポール子会社等を対象とした事案であり、またシンガポールの国際カルテルでは過去最高額となる合計約16億円の制裁金支払を命じたものである。

 

1. 事案の概要

 本決定は、日系5企業グループのシンガポール子会社等を対象として、特定種類のコンデンサのシンガポールにおける販売に関し、価格協定並びに販売、流通及び価格に係る機微情報の交換が競争制限的合意等を禁止するシンガポール競争法(「競争法」)の規定に違反することを理由として出されたものである。本決定に係る事案(「本事案」)では、2013年10月にある企業グループの現地子会社が行った競争法に係る制裁金減免制度の適用申請が調査の端緒とされており、2014年5月からシンガポール競争委員会が実際に調査を開始し、当該調査開始から約3年8か月で本決定が出されるに至っている。本決定では、最も早く制裁金減免制度の適用を申請した対象事業者は、競争法違反に基づく制裁金(「制裁金」)の賦課を免除されており、またそれ以外の対象事業者のうち3社もその後、制裁金減免制度の適用申請を行っており、当該事情も考慮して制裁金額の決定がなされている。

 

2. シンガポール競争委員会の積極的執行姿勢

 シンガポール競争委員会は、本決定と同日に出されたプレスリリースにおいて、カルテルがシンガポールの市場及び競争力に悪影響を生じさせることがないよう、引き続き競争法の強力な執行措置を講じていく旨の声明を出している。したがって、カルテルをはじめとする競争制限的合意等に関し、今後も積極的な執行措置が講じられることが見込まれる点は留意する必要がある。

 

3. 競争当局間の調査協力

 本事案に係る調査過程において、シンガポール競争委員会は、日本、米国、EU及び台湾の各競争当局と協力を行った旨を公表している。

 なお、日本との関係では、2017年6月に、日本の公正取引委員会とシンガポール競争委員会の間で、両競争当局間の協力枠組みを設定し、各国競争法の効果的な執行に貢献することを目的として、競争当局間の協力に関する覚書が締結されており、今後は、当該覚書に基づいて、両競争当局間において執行活動に関する情報提供や執行活動の調整等の協力がなされ得る点にも留意が必要である。

 

4. 過去の国際カルテル事案

 参考まで、本決定を含め、シンガポールにおける過去の国際カルテルに係る競争法違反決定の概要は以下のとおりである。いずれの事案においても日系企業が対象事業者として関与している点は、注目に値する事象といえるであろう。

 

ベアリング事件

貨物運送事件

コンデンサ事件

違反決定の時期

2014年5月

2014年12月

2018年1月

対象事業者

日系ベアリングメーカーと同シンガポール子会社

日系含む運送会社11社と同シンガポール子会社等

日系コンデンサメーカーのシンガポール子会社等

対象製品・役務

シンガポールのアフターマーケット顧客[1]向けボールベアリング等

日本からシンガポール向け貨物運送サービス

シンガポール顧客向け特定種類のコンデンサ

行為態様

価格協定・不法な情報交換

価格協定・不法な情報交換

価格協定・不法な情報交換

制裁金額
(総額)

約7.7億円
(約931万シンガポールドル)[2]

約5.9億円
(約715万シンガポールドル)

約16億円
(約1,955万シンガポールドル)

調査の端緒

制裁金減免申請

制裁金減免申請

制裁金減免申請



[1] アフターマーケット顧客とは、修理やメンテナンス目的で製品を使用する顧客及び同顧客向けに製品を販売する流通業者等をいう。

[2] なお、ある事業者による競争不服申立委員会(Competition Appeal Board)への不服申立に基づいて、同委員会が当該制裁金額の一部を減額する決定を出している。

 

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