◇SH3587◇シンガポール:DIP型再建手続(スキーム・オブ・アレンジメント)とDIPファイナンス(2) 酒井嘉彦(2021/04/20)

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シンガポール:DIP型再建手続(スキーム・オブ・アレンジメント)と
DIPファイナンス(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

3. DIPファイナンスに対する優遇の付与

 会社の資金繰りが悪化し、法的手続を開始した後においても、会社の運転資金を確保して事業を継続しつつ再建を行うためには、金融機関等から新たな融資を得られることが重要となる場面がある。このようないわゆるDIPファイナンスの取扱いについても、シンガポールの倒産法は、米国のチャプター11におけるDIPファイナンスの枠組みに大きな影響を受けている。

 

 具体的には、倒産法第67条において、裁判所がその決定により、DIPファイナンスに既存の一般債権や有担保債権に対する優先権といった一定の優遇を付与する仕組みが規定されている。概要以下の通り、5種類のバリエーションが用意されており、以下のうち一つだけではなく、複数を組み合わせて選択されることもある。下記①から⑤に行くにつれてDIPファイナンスに与える優遇の程度が高くなり、下記⑤が最も手厚い優遇が付与されるものである。このようにDIPファイナンスを優遇し、参入を促進することにより、財政的困難に陥った企業の債務者主導の再建を支援することが企図されている。

 

 

DIPファイナンスに対する優遇の内容

根拠規定

裁判所による決定の要件

優遇の程度

清算時の清算費用と同等の優先順位を与えるもの

倒産法第67条第1項第(a)号

  1. 1. 当該DIPファイナンスが債務者の事業継続にとって必要であること

 

 

 

 

 

 

清算時の清算費用その他の法定の優先債権及び他の無担保債権に対する優先権を付与するもの

同第(b)号

上記1及び

  1. 2. 当該優遇を付与しない限り当該DIPファイナンスを調達できないこと

担保付資産に関して既存担保権に対する後順位の担保権を付与するもの

同第(c)号

上記1及び2

既存担保の付されていない資産に関する担保権を付与するもの

同第(c)号

上記1及び2

担保付資産に関して既存担保権に対する同順位又は先順位の担保権を付与するもの

同第(d)号

上記1、2及び

  1. 3. 既存の債権者(既存の担保権者)に対して適切な保護を与える措置が講じられていること

 

 もっとも、かかるDIPファイナンスへの優遇の付与の決定に関して裁判所は裁量を有しており、債務者の効率的な再建と既存の債権者の利益の保護とのバランスを調整する役割を担っている。実際にこれまでのいくつかの裁判例において、DIPファイナンスに対する優遇の付与の決定にあたり、上記表に記載の法定要件の他に、(i)優遇を付与しない形での資金調達の確保に向けた合理的な努力がなされていたといえるか、(ii)最も好条件の資金調達案である、又は、他の資金調達の手段がないといえるか、(iii)(優遇を付与した場合とそうでない場合のシナリオとの比較検討も踏まえて)当該DIPファイナンスが債権者の最善の利益に資するか、といったところにまで踏み込んで裁判所の決定の理由としているものが存在する。

 

4. おわりに

 シンガポールの倒産法に基づくDIPファイナンスへの優遇の付与の利用実績は、現時点ではそれほど多くはないものの、徐々に増えつつあり、その実例の中では上記表の②の決定が最も多いとされている。他方で、本稿作成時点において、上記表の⑤の最も強力な優遇が裁判所に認められた例はまだ報告されていない。このようなDIPファイナンスは、COVID-19の影響により財政的困難に陥る企業の増加や、倒産法の解釈・運用に関する裁判例の蓄積を踏まえて、今後も利用件数が増加していくのではないかと予測されているため、引き続きその動向に注目したい。

以 上

 


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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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