◇SH3385◇会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(5) 少数株主による株主総会の招集に関する最近の2つの裁判例 弥永真生(2020/11/16)

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会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(5)
少数株主による株主総会の招集に関する最近の2つの裁判例

筑波大学ビジネスサイエンス系(ビジネス科学研究科)教授

弥 永 真 生

 

1 学説・裁判例の蓄積の少ない株主招集の株主総会

 会社法は、一定の場合に、株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができるものとしている(会社法297条4項)。しかし、社長が株主総会の議長となる旨の定款の定めがある場合であっても、株主が招集した株主総会には、このような定款の定めは適用されず、株主総会で選任しなければならない(横浜地決昭和38・7・4下民集14巻7号1313頁)、裁判所が許可した目的事項についてのみ決議でき(ただし、会社法315条2項)、これに違反した決議は、株主総会決議取消の取消事由となる(金沢地判昭和34・9・23下民集10巻9号1984頁)、招集許可を得た株主は、基準日現在の株主を知るための手段として、株主名簿のほか、名義書換のため名義書換代理人に送付されてきた株券及び名義書換請求書も閲覧・謄写することができる(東京地決昭和63・11・14判時1296号146頁)というような裁判例は存在するものの、株主が招集する場合に生じうる法律問題については、裁判例は少なく、また、研究者による分析も少ないように思われる。

 ところが、本年に入って、株主が招集する株主総会に関して、2つの興味深い下級審裁判例が現れた。

 

2 東京地裁令和2年2月27日判決(令和元年(ワ)第24747号)[1]

 投資主総会決議取消請求事件ではあるが、会社法の解釈として、①株主が招集した株主総会について、他の株主または会社の取締役が招集株主に対して議案要領通知請求権を有すると解することはできない、また、②他の株主が取締役に対して議案要領通知請求を行うことにより、招集株主が議案要領通知義務を負うと解することはできないとの解釈を示した。

 他の株主が招集株主に対して議案要領通知請求権を有すると解することは、この判決が指摘するように、会社法298条1項柱書かっこ書きが305条1項については、読替えの対象から除外していること、305条1項の沿革及び招集株主の負担により議題要領通知をさせることは適当とはいえないことなどから、学説も、他の株主は有しないと解してきたのではないかと推測される(大隅健一郎=今井宏『会社法論〔第3版〕中巻』(有斐閣、1992)37頁注(2))。また、会社法305条が政策的な規定であるとすれば、株主招集総会について、少数株主が取締役に対して議案要領通知請求が可能であるとの規定がなく、取締役に議案要領通知請求がされた場合に、名宛人でもない招集株主が議案要領通知義務を負う根拠となる規定や取締役に対してされた請求に基づいて招集株主が通知を実施する手続規定も設けられていないことから、この判決が指摘するように、会社法は、そのような招集株主の義務を予定していないといわざるを得ず、②のような結論が導かれるのであろう。他方、明文の規定がないことを理由として、株主招集総会について、取締役が招集株主に対して議案要領通知請求権を有しないとした点については、異論もありえよう(大隅=今井・前掲書24頁)。

 

3 さいたま地裁令和2年10月29日決定(令和2年(ヨ)第192号)[2]

 招集株主が委任状を返送した株主に対するクオカード贈与の表明をした事案につき、会社の監査役が、当該総会の開催には違法があるなどと主張して、当該総会の開催を禁止する仮処分命令を求めたものである。

 この決定は、①「少数株主が裁判所の株主総会招集許可を受けている場合, 招集株主は,単なる株主としての地位にとどまらず, 当該株主総会における決議が法831条1項1号所定の取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催すべき善管注意義務を負うと解されるところ,それに違反し,又は違反するおそれがあるときは, 監査役は, 当該株主総会の開催について、法385条の類推適用により,同条に定める差止請求権を有する」、②「法120条1項の……趣旨のうち, 株主の意思を歪めるような利益供与が禁止されるべきであるという点は,少数株主により招集される株主総会における株主の権利行使についても等しく妥当するといえる。そうすると,招集株主が,他の株主に対して,株主総会における権利行使に先立って,財物の贈与を行うことを表明し,又はそれを実行した場合において,贈与の目的,その条件,その財産的価値,議決権行使に係る議案の内容等に照らし,それが株主の権利行使に不当な影響を及ぼすと認められるときは,当該株主総会における決議の方法が著しく不公正なものとなるというべきである。/そして,当該株主総会が開催される以前の段階であっても,株主の権利行使に不当な影響を及ぼすおそれがあると認められるときは, 当該株主総会における決議が取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催することに関して招集株主が負担している善管注意義務に違反するおそれがあるものとして,差止めの理由となると解される」などの判断を示した。①及び②のいずれについても初めての裁判例であると推測され、学説においても議論の蓄積がない点についての判示である。

 ②の前半については、招集株主以外の株主が財物を贈与する場合にもあてはまるのか、あてはまらないとすると、なぜ招集株主の場合にのみそのように解されるのかという疑問が生じそうであるが、①も②も裁判所の許可を得て株主総会の招集をする株主は会社の機関的立場に立つことを論理的前提とするのであろう。①は、株主総会の招集通知、株主総会参考書類および議決権行使書面の交付が招集株主の名をもって行われることから(会社法298条1項かっこ書、299条、301条、302条)、その限りにおいて、会社を代表していることになるから、機関的立場に立ち、会社に対して善管注意義務を負う[3]というロジックなのではないかと推測される。

 また、会社法124条は、会社が基準日の公告を行うとされているところ、この事件でもそうであったが、招集株主は基準日の公告も行っており[4]、招集株主による公告が会社による公告であると法的に評価されるのであれば、招集株主はその限りにおいて会社の機関であると位置づけられているということになりそうである。

 もっとも、監査役による違法行為差止請求の対象となるとした点については賛否両論がありうるように思われる。一方では、指名委員会等設置会社でも監査等委員会設置会社でもない会社においては、本来、会社を代表して違法行為差止請求するのは代表取締役であるが、取締役の違法行為の差し止めを代表取締役が求めることは必ずしも期待できないから、監査役に差止請求を認めているというのだとすれば、総会招集株主に対する差止請求は代表取締役の権限であり、監査役にそのような権限を認める必要はないという考え方もあり得よう。他方では、(他の)株主に招集株主に対する違法行為差止請求を認めることが適切な場合があると考えて、会社法360条の類推適用を認めるのだとすれば、監査役についても会社法385条の類推適用を認める方が平仄がとれている(そして、類推適用を認めたとしても、会社にとって特段の不都合はないし、招集株主にとって深刻な問題が生ずるというわけでもなかろう)ということになりそうである。

 なお、この決定は、招集株主がクオカードの贈与を表明したことは、当該臨時株主総会を開催することに関して招集株主が負担していると解される善管注意義務に違反するおそれがある行為に当たるということはできないなどとし、被保全権利が認められないとして申立てを却下したため、原審債権者が抗告したが、――この決定の①および②の部分は引用されることなく――保全の必要性を認めることができないとして抗告棄却された(東京高決令和2・11・2(令和2年(ラ)第1851号))[5]。そのため、①および②のような解釈が高裁レベルで受け入れられるかどうかは明らかにはならなかった。


[2] 抗告審決定とともに資料版商事法務441号62頁以下掲載。

[3] もっとも、招集株主と会社との間に委任類似の法的関係を想定することには無理があるのではないかと思われる。ただし、事務管理であっても、善管注意義務を負うことになるから(民法698条の反対解釈)、委任類似の法的関係がなくとも善管注意義務を負うと考えることはできよう。

[4] なお、本決定の事案では、会社の定款は、公告方法を原則として電子公告とし、「事故その他やむを得ない事由」がある場合に限り、例外的に日本経済新聞に掲載して行うと定めており、法人登記上、 電子公告先のURLとして会社のウェブサイトのURLが登記されていたが、招集株主は日本経済新聞で公告を行った。この点について、本決定は、招集株主が会社の協力を得ることなく単独で会社のウェブサイトにおいて電子公告を行うことができることを認めるに足りる疎明はなく、また、本件においては、会社の役員と招集株主とは、取締役の選解任や本件買収防衛策の導入をめぐり従前から対立関係にあることが一応認められ、招集株主において同ウェブサイト上に電子公告を行うことについて会社側の協力を期待し難い状況にあるものといえるから、基準日公告については、会社の定款4条ただし書きにいう「やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合」に該当する事情があるということができ、日本経済新聞に掲載する方法によることも許容されるというべきであると判示した。

[5] 抗告人は許可抗告を申し立てたが、東京高決令和2・11 ・4(令和2年(ラ許)第490号)は抗告を許可しないとした。

 

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