◇SH3403◇金融庁、「監査基準の改訂に関する意見書」及び「中間監査基準の改訂に関する意見書 」を公表 浜崎祐紀(2020/11/27)

未分類

金融庁、「監査基準の改訂に関する意見書」及び
「中間監査基準の改訂に関する意見書 」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 浜 崎 祐 紀

 

 金融庁は、2020年11月11日、企業会計審議会が取りまとめた「監査基準の改訂に関する意見書」及び「中間監査基準の改訂に関する意見書」を公表した。今回の監査基準の改訂点は、監査報告書の「その他の記載内容」とリスク・アプローチの強化についてである。後者の点については、中間監査基準においても改訂がなされている。監査基準と中間監査基準の改訂点は共通するため、以下では、監査基準の主な改訂点について紹介する。

 

1 「その他の記載内容」について

 ⑴ 改訂の背景

 近時、企業内容等に関する情報の開示について、経営者による財務諸表以外の情報の開示の充実が進んでいる。他方で、これまで、財務諸表とともに開示される財務諸表以外の情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等との間に重要な相違があるときには、監査人が表明した適正性に関する結論に誤りがあるのではないかとの誤解を招くおそれがあることから、当該相違を監査報告書に情報として追記することとされていたが、その取扱いは必ずしも明確ではなかった。

 今般、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(以下「その他の記載内容」という。)について、監査人の手続を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとされた。

 ⑵ 改訂の主な内容

 まず、監査人において、「その他の記載内容」を通読し、これと財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することが明確化された。

 また、監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、以下の項目を記載することとなった。

  1.  「その他の記載内容」の範囲
  2.  「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任
  3.  「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨
  4.  「その他の記載内容」に対する監査人の責任
  5.  「その他の記載内容」について監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容

 

2 リスク・アプローチの強化について

 ⑴ 改訂の背景

 近年の公認会計士・監査審査会の検査結果において、重要な虚偽表示のリスクに対応する監査手続等が不十分との指摘がなされており、監査の質の向上が求められている。また、国際的な動向においても、監査基準の改訂がなされ、監査手続が強化されている。こうした動向を踏まえ、リスク・アプローチ[1]の強化を図る改訂が行われた。

 ⑵ 改訂の主な内容

 第1に、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを統制リスク[2]と固有リスク[3]とに分けて評価し、固有リスクについては重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案し、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響(金額的影響及び質的影響)を組み合わせて評価することとされた。

(出典:日本公認会計士協会「改訂監査基準の概要」5頁)

 

 第2に、財務諸表項目レベルにおける評価において、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響(金額的影響及び質的影響)の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクについて、特別な検討を必要とするリスクと定義した。特別な検討を必要とするリスクに対しては、より重点的な監査手続が実施される。

(出典:日本公認会計士協会「改訂監査基準の概要」6頁)

 

 第3に、会計上の見積りについてのリスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点が明確にされた。

 

3 終わりに

 今般の改訂においてリスク・アプローチの強化された点は、裏を返せば、企業にとって、虚偽表示リスクの相対的に高い点であるともいえる。会社の実態に即した適切な内部統制の体制を整備する上で(会社法362条4項6号等)、今般の改訂点は着眼すべき点になると考えられる。

以上

 



[1] リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施することをいう。

[2] 財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。

[3] 関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、企業内外の経営環境により影響を受けるリスク及び特定の勘定や取引が本来有する特性から生ずるリスクからなる。


(はまさき・ゆうき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年東京大学経済学部卒業。2010年早稲田大学大学院法務研究科修了。2013年弁護士登録及び公認会計士登録。2003年から2006年まで監査法人トーマツに勤務。2012年から2013年まで原口総合法律事務所に勤務。2013年から2015年までPwC税理士法人に勤務。一般企業法務、会計監査業務、税務コンサルティング業務等に従事。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>
〒100-6315 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング15階 電話 03-3214-6205(代表)

タイトルとURLをコピーしました