東芝、会社法316条2項の業務財産状況調査報告書に続いて
監査委員会依頼の法律事務所調査報告書を公表
――圧力問題など巡り取締役選任議案変更の対応も定時株主総会では2候補者の再任が否決される――
東芝(本社・東京都港区、東証一部・名証一部上場〔両取引所が2017年8月1日をもって二部に指定替え、東芝は2020年4月3日に一部への指定申請、両取引所は本年1月22日付で一部指定を承認、同月29日をもって一部指定〕)は6月10日、昨年開催の定時株主総会に係るいわゆる圧力問題などを巡り、6月10日付の(A)「会社法第316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書」(以下「調査者調査報告書」という)を公表するとともに6月21日、2月17日付となる(B)同社監査委員会の依頼による「法律事務所作成の調査報告書」(以下「法律事務所報告書」という)および「ECMによる株主総会招集請求に係る監査委員会の見解」(以下「監査委員会見解書」という)を公表した。なお、6月25日に開かれた第182期定時株主総会では会社提案による取締役11名選任議案中、社外取締役である取締役会議長(兼指名委員会委員長・報酬委員会委員)および監査委員会委員の計2名の役員再任が否決され、同社は同日中に、承認可決された他の取締役を暫定の取締役会議長に選定したこと、承認可決された1取締役が辞任したこと、「当社取締役会からの声明」と題する文書を発表。同月28日には、再任否決となった2候補者への反対割合を含む議決権行使結果について発表した。
同社の開示資料によると、6月10日公表の上記(A)調査者調査報告書は、2020年7月31日開催の第181期定時株主総会が公正に運営されたか否かについて(a)Effissimo Capital Management Pte Ltd(以下「エフィッシモ」という)ら複数の株主が同年12月17日付で臨時株主総会の招集を請求、本臨時総会の目的事項として調査者の選任を掲げていたことに基づく。(b)東芝は2021年1月15日、本臨時総会の基準日を2月1日と定めた旨を発表(同月20日、エフィッシモらを申立人とする株主総会の招集許可申立書の送達を東京地裁から受けた旨を発表)、(c)2月17日には3月18日に開催すること、付議議案などに関する取締役会決議とともにエフィッシモらの提案を含む計2議案につき、いずれも取締役会として反対する旨を決議したと発表。臨時総会開催に向けては東芝が2月22日、東京地裁に株主総会検査役の選任申立て、エフィッシモらにおいても2月18日に選任申立て(東芝の2月25日付発表による)を行い、3月10日、東京地裁が選任の決定を行ったこと、同社およびエフィッシモらの申立手続は併合され、併せて決定を受けたことを発表した。3月18日の臨時総会開催後においては、調査者の選任に係る株主提案議案が原案どおり承認可決されたことを発表するとともに「誠実に協力をし、引き続き経営の透明性の一層の確保を図っていく」と表明した。
公表された調査者調査報告書の「本件調査者の選任経緯」によれば、「東芝の株主である Effissimo Capital Management Pte Ltd は、2020年9月23日付けで、独立した委員のみで構成される第三者委員会によって2020年7月31日開催の第181期定時株主総会が公正に運営されていたのかを調査することを東芝経営陣に要請したが、当該要請から約3カ月が経過しても、第三者委員会が設置されることはなかった」旨を記しており、このため、本臨時総会の招集請求がなされ、調査者選任議案を提案。調査者は所属事務所の異なる弁護士3名で、大別して(ア)議決権集計問題に関する事項、(イ)圧力問題に関する事項の2点を調査したものである。圧力問題として具体的な調査事項は「① 本定時株主総会に関する株主提案権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容及び東芝の関与について、東芝が経産省と連携して不当な影響を与えることによりエフィッシモ・3D(編注・後出参照)の株主提案の取下げを画策したか否か。もって、本定時株主総会が公正に運営されたか否か」「② 本定時株主総会に関する議決権の行使を事実上妨げようとした動きの有無・内容及び東芝の関与について、東芝が経産省と連携して不当な影響を与えることにより HMC(編注・後出Harvard Management Company, Inc.の略称)その他の株主の議決権の行使を事実上妨げようと画策したか否か。もって、本定時株主総会が公正に運営されたか否か」となる。なお、2020年の定時総会で3D OPPORTUNITY MASTER FUNDが提案したのが「第3号議案(取締役2名選任の件)」であり、エフィッシモらが提案したのが「第4号議案(取締役3名選任の件)」であった(いずれも否決)。
上記(B)法律事務所報告書は、東芝の取締役会が「(編注・エフィッシモが招集を請求した)臨時株主総会を招集するか否か等について」意思決定を行うに当たり、同社監査委員会が1月22日、大手法律事務所に対して依頼したもの。調査事項は上記(イ)圧力問題に限定されており、本報告書によると、おおむね「2020年12月17日付け臨時株主総会招集請求書において、2020年7月31日に開催された株式会社東芝の第181期定時株主総会において『一部の株主が圧力を受け議決権行使を行わなかった』と言及されているところ、2020年12月24日付け Reuters 記事で報道されている、当時経済産業省参与であったM氏による Harvard Management Company, Inc.(以下「HMC」といいます。)の議決権行使への不当な干渉があったとすれば、それに東芝が関与したか否か、及びこれに関連する事項」とされた(一部略)。東芝において6月21日、「当社としては、監査委員会の調査結果(略)については、行政当局の公務の執行状況を含む第三者の行為に関して言及がなされているため、これまで開示しておりませんでした。しかしながら、(略)調査者調査報告書においては行政当局の公務の執行状況を含む第三者の行為について既に言及があることから、当社は監査委員会の調査結果を開示しない理由がなくなったと判断」したとし、監査委員会見解書とともに公表に及んだ恰好となっている。
法律事務所報告書による結論は「本件調査において確認した証拠の限りにおいて、M氏が、HMC に対し、本件株主総会における議決権行使に関して不当な圧力を掛けていたことを窺わせるものはなく、また、東芝がM氏をして不当な圧力を掛けさせようとするなどして不当な干渉に関与したことは認められなかった」とする(同日付の追加調査報告書による HMC 以外の株主の議決権行使について結論同旨)。監査委員会見解書は監査委員会としての調査に加え、本報告書の当該結論も踏まえたうえで圧力問題につき「監査委員会としては、これ以上調査を進める必要を見出すことができず、これ以上の判断の遅延を取締役会に求めることは適切ではないと判断する」などの見解を述べ、また、上記(ア)議決権集計問題については「当社が関与する作業に関するものではなく」集計担当会社および郵便物を取り扱った会社に委ねられるべき問題として、エフィッシモの提案につき取締役会が株主に反対推奨することを相当とするものとなった。
一方の調査者調査報告書においては(イ)圧力問題に関し、東芝は「本定時株主総会について、経産省といわば一体となり、エフィッシモの株主提案権の行使を妨げようと画策し、3D の議決権行使の内容に不当な影響を与えようと画策し、さらには、HMC についてはその議決権全てを行使しないことを選択肢に含める形で投票行動を変更させる交渉を行うようM氏に対して事実上依頼した」「本定時株主総会におけるいわゆるアクティビスト対応について経産省に支援を要請し、経産省商務情報政策局ルートと緊密に連携し、改正外為法に基づく権限発動の可能性等を背景とした不当な影響を一部株主に与え、経産省商務情報政策局ルートといわば一体となって株主対応を共同して行っていた」などと指摘。そのうえで「本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する」と結論した。(ア)議決権集計問題に関しては「(編注・一部の)処理は不適法かつ不公正なものであったが、これについて東芝の認識及び関与は認められなかった」とし、また当該処理以外には「不適法あるいは不公正な点は認められなかった」としている。
このような調査結果を受け、東芝は6月25日開催の定時総会を前にした同月13日、5月14日付で公表した複数の社外取締役候補者・執行役選任予定者の変更を発表。「コーポレートガバナンス・コードの規定に照らして(略)定時株主総会が公正に運営されたものとは言えないというご指摘については真摯に受け止めて」いること、「外部の第三者の参画も得て速やかに客観的、透明性のある徹底した真因、真相の究明を行い責任の所在を明確化」することを表明した。6月18日には今般再任されなかった取締役会議長名により「当社取締役会議長からの株主へのオープンレターについて」と題する文書を公表。同氏として「取締役会と共に、当社のガバナンスを抜本的に改善」するなどとし、外部の第三者の参画も得た調査につき重ねて言及したうえで「直ちに実行」する施策を明らかにするとともに「現状に安住することなく、前向きな変革者であり続ける事を皆様にお約束致します」と述べるものであった。
なお、本稿執筆時点において確認できる経産相の閣議後記者会見の概要によると「経済産業省としての対応は(略)、東芝が担っている重要な事業、技術の安定的な発達を図ろうとするものであって、当然のことであるということを申し述べたわけですが、その上で、今回の調査報告書は株主総会の公正性を取り扱った東芝のガバナンスに関する報告書であること、報告書の内容には、事実関係に疑問を持たざるを得ない箇所もあること等も踏まえて、まずは今後の東芝の動きを注視してまいりたいと思っております」「報告書では、経済産業省の職員の行動が書かれている部分もありますけれども、事実関係に疑問を持たざるを得ない箇所もあります。こうした状況の中で、経済産業省としては、職員の一つ一つの行動が守秘義務違反に当たるか否か確認する必要はないと考えております」(以上、6月15日会見)、(編注・記者からの「調査報告書では、東芝と経産省がM氏に対して、ハーバード大の基金運用ファンドに議決権を行使しないよう交渉することを事実上依頼したと認定して」いるとする指摘に対して)「経済産業省としてM氏にこうした交渉を依頼した事実はないということがまず第1点、この点はM氏も経産省から依頼は受けていなかったという認識を持っていると事務方から聞いております。また、M氏が調査者によるヒアリングにおいても、そのことを調査者に述べたにもかかわらず、調査報告書にそのことが記載されていないことも、事務方から聞いているところであります」(6月18日会見)といった見解が表明されているところである。