SH3419 公取委、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」を公表 矢上浄子(2020/12/15)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

公取委、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」[1]を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所

弁護士 矢 上 浄 子

 

1 本報告書の公表の経緯

 近年、大企業がスタートアップと連携して新たな価値を創造する、いわゆるオープンイノベーションが重要視されている[2]。経済産業省や特許庁においても、大企業とスタートアップのオープンイノベーションの促進に向け、スタートアップの実態調査・研究、モデル契約書の作成等の取組みが進んでいるところである[3]

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)においても、スタートアップの新規参入を容易にし、公正かつ自由な競争環境を確保するという観点から、まずはスタートアップの取引慣行の実態を明らかにするためとして、2019年11月にスタートアップの取引慣行に関する実態調査を開始した(以下「本調査」という。)。

 本調査では、まず2020年2月から同年6月にかけてスタートアップに対するアンケート調査が実施され、その結果の一部が同年6月30日に中間報告として公表された[4]。その後、スタートアップ、出資者、有識者および事業者団体に対するヒアリング調査が実施され、その結果と独占禁止法上の評価等が同年11月27日に「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下「本報告書」という。)として公表された。以下では、本報告書の概要と要点について俯瞰することとしたい。

 

2 本報告書の概要

 スタートアップには、数人程度で研究開発のみを行うものから、10億ドル以上の企業評価額が付けられる「ユニコーン」と呼ばれるものまで様々な規模があり、その産業領域も多岐にわたる。本調査では、今後高い成長率が見込まれる先端的な産業領域において事業活動を行う事業者のうち、特に創業10年程度で、未上場の企業が調査対象とされた[5]。そのうえで、スタートアップの事業活動における取引関係を、①主に事業上のシナジー効果を得ることを目的とした事業会社(以下「連携事業者」という。)との継続的な事業連携にかかるものと、②事業会社、ベンチャーキャピタル、コーポレートベンチャーキャピタルといった出資者からの継続的な出資にかかるものの二つに大別し、それぞれの取引・契約関係に関する調査が実施された。

 本報告書における調査結果によれば、アンケートに回答したスタートアップの約2割が連携事業者または出資者から「納得できない行為を受けたことがある」とし、さらにその約8割が「納得できない行為を一部でも受け入れたことがある」とのことである[6]。なお、売上規模が小さく、十分な法務体制が整備されていないスタートアップほど、納得できない行為を受けた割合が高かったことも着目に値する[7]

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(やがみ・きよこ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2000年中央大学法学部卒業、2001年米国テンプル大学ロースクール(北京校)修了、2002年中国政法大学国際経済法系修士課程修了、2007年早稲田大学大学院法務研究科修了。2002年ニューヨーク州弁護士登録、2008年弁護士(第二東京)登録。2018-2020年神戸大学大学院法学研究科非常勤講師。主に独占禁止法、クロスボーダー取引の分野でアドバイスを行う。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 https://www.amt-law.com/

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