◇SH3430◇中国:生物安全法(前編) 川合正倫(2020/12/23)

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中国:生物安全法(前編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 2020年10月17日、第十三回全国人民代表大会常務委員会において「中華人民共和国生物安全法」[1](「生物安全法」)が可決され、2021年4月15日より施行される。

 中国はこれまでにバイオセーフティ分野について十数本の個別の法令を制定していたが、基礎的事項を定める包括法令は未制定であった。本年発生した新型コロナウィルスのような深刻な疫病にも迅速に対処できる体制を整備することも制定の経緯となっている。本法は、遺伝資源や生物資源の利用に関しても規定を定めており、医薬品を取り扱う企業も規制の対象となりうる。

 

一、適用範囲及び管轄部門(第2条、第23条、第33条)

生物安全法の適用範囲は以下の分野とされる。

① 深刻かつ突発的な新たな伝染病、動植物疫病の予防・抑制

② バイオ技術の研究、開発及び利用

③ 病原微生物[2]実験室のバイオセーフティ・マネジメント

④ 人間の遺伝資源[3]及び生物資源[4]のセキュリティ・マネジメント

⑤ 外来種の侵入阻止による生物多様性の保護

⑥ 抗微生物薬耐性への対応

⑦ 生物テロの阻止、生物兵器の脅威の防御

⑧ その他バイオセーフティに関連する活動

 生物安全法の管轄部門は、税関、薬品監督管理部門、生態環境部門とされる。上記内容及び管轄部門に鑑みると、生物技術、医薬品、動植物輸出入などに従事する企業は、生物安全法に基づく重点監督の対象となりうると思われる。

 

二、セキュリティ審査制度の導入(第20条)

 生物安全法は、国はセキュリティ審査制度を構築し、国の安全に影響を及ぼす又はそのおそれがあるバイオ分野における重大な事項及び活動について、バイオセキュリティ審査を行うと定めている。この点に関し、生物安全法の第二回審議版においては、外国投資家による病原微生物実験室の設立並びに人間の遺伝資源情報を国外の組織、個人及びそれらが設立し又は実質的に支配する機構に提供又は使用させることにより、国民の健康、国の安全及び社会の公共的な利益に影響を及ぼすおそれがある場合に限定してセキュリティ審査を行うと定められていたが、このたび採択された生物安全法においては当該内容が削除され、国の安全に影響を及ぼす又はそのおそれがあるバイオ分野における重大な事項及び活動であれば、いずれもセキュリティ審査の対象となるものとされた。なお、生物安全法は、審査条件について詳細に定めておらず、この点に関する下位規範の立法動向が注目される。

 

三、倫理原則及び倫理審査制度の構築(第34条、第40条、第55条)

 生物安全法は、バイオ技術の研究、開発及び利用、中国の人間遺伝資源の収集、保存、利用、国外への提供は倫理原則に従うこと、バイオ医学の新技術の臨床研究に従事する場合は倫理審査を受けることを定めている。中国では、2018年にゲノム編集で遺伝子を組み替えた嬰児を誕生させたという事件[5]があった。倫理に反する科学研究は許されるべきではないとの批判が高まる中、中国政府は、2020年10月21日に、国家科技倫理委員会を設立し、倫理審査制度の明確化や関連する法律制度の規範化を目指すと発表しており、今後、より詳細な倫理審査制度が策定される見込みである。

(後編に続く)



[2] 「病原微生物実験室生物安全管理条例」に基づき、病原微生物とは、ヒト又は動物に病気を患わせる微生物をいう。

[3] 「人間の遺伝資源管理条例」に基づき、人間の遺伝資源とは、人間の遺伝資源材料(血清、尿、糞便、骨髓等を含む)及び人間の遺伝資源情報(臨床データ、エコー検査、CT、ゲノムデータ等を含む)を含む。

[4] 「生物多様性条約」によると、「生物資源」は、現に利用され若しくは将来利用されうる又は人類にとって現実若しくは潜在的な価値を有する遺伝資源、生物又はその部分、個体群その他生態系の生物的な構成要素を含む。

[5] 南方科技大学の元副教授賀建奎は2018年11月、ゲノム編集で遺伝子を組み替えた人間の嬰児を誕生させたことを発表した。2019年12月、深圳市南山区の裁判所は賀建奎に懲役3年及び罰金人民元300万元に処する判決を言い渡した。

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

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