◇SH0022◇香港:会社法改正 若江 悠(2014/07/07)

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香港:会社法改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

 香港は、所得水準の高い700万人超の人口を抱える重要な市場(人口としてはシンガポールよりも多い)であるが、日本企業による香港市場そのものへの投資はある程度一巡している感がある。

 他方で、香港は、昔から日本企業にとって「中国への窓」であり続けてきた。今でも、香港にSPCを設置し当該SPCが持株会社として中国外商投資企業の持分を保有する投資形態がとられることは少なくない。直接投資でなく持分会社形態とするのは、直接投資だと持分譲渡について審査認可機関による認可申請手続が必要となるため合弁契約等でプットオプションを定めても実効性がなくなってしまうが、持分会社レベルで持分譲渡を行うことにすれば簡便であること、中国の外商投資企業では種類株式や新株予約権等が会社法制上基本的に認められていないが、契約による不安定な仕組みでなく定款上柔軟な設計を行いたい場合があること、などがあげられる。香港が選ばれるのは、中国外商投資企業からの配当に課せられる源泉徴収税に関し優遇措置が設けられているなどの各種メリットもあるし、日本企業にとってBVIやケイマン島などのタックスヘイブンはなじみがなく、地理的にも近い香港が選好されるという面もあるように思われる。

 このような文脈で、中国と対比して、香港の会社法はモダンで合理的なものであることをいきおい期待してしまうのだが、独特の仕組みがあったり、日本の会社法ではとっくに撤廃された制度が残っていたりと、実は、使い勝手の悪い部分もかなり多かった。

 

 今回、1932年に制定され約80年の歴史をもつ旧会社条例(Companies Ordinance)がほぼ全面的に廃止され、新会社条例が2014年3月3日から施行された。ここではそのうち、SPCとして用いる場合を想定して関連性の高いと思われるものをとりあげる。

  1. ① 定款の一本化:日本でいう定款がもともとmemorandumとarticlesの二つに分かれていたところ、articlesに統一される。
  2. ② 定款上、会社の目的(経営範囲)を規定することが不要になった。SPC等の場合は引き続き規定することになろうが、会社行為の有効性には影響を与えないことが明確にされた。
  3. ③ 授権資本制度、額面株式制度の廃止
  4. ④ 資本維持の原則の緩和:支払能力テスト(solvency test)等を満たせば、減資を裁判所の許可なしに実施できる手続が制定された。同様に(配当可能利益でなく)資本金をもって自己株取得を行いうる制度も創設された。厳しく規制されていた自己株式取得目的での第三者への財政援助(financial assistance)にも例外が追加された。
  5. ⑤ 書面決議、テレビ会議による総会等に関する規定の整備
  6. ⑥ 全員一致決議により、1年に一度の定時総会すらも開催しないことができるようになった。
  7. ⑦ 社印(common seal)の採用が任意的に。取締役による署名でもよいことになる。

 旧法のもとで作成された定款(memorandumとarticles)の規定はすべて新法に従いarticlesに規定されたものとみなされ、授権資本や額面株式に関する規定も自動的に廃止されたものとみなされる。しかし、かなり大幅な改正がなされているため、自動的な読み替えだけでは不都合が生ずる部分も出てくるであろう。香港SPCの管理運営については、事務的定型的な処理としてコンサルティング企業に任せてしまっている向きも多いかもしれないが、今回の改正を機に、定款のチェックを行ってみてもよいかもしれない。

 

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