◇SH3464◇債権法改正後の民法の未来91 複数の法律行為の無効・解除等(下) 稲田正毅(2021/01/29)

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債権法改正後の民法の未来91
複数の法律行為の無効・解除等(下)

共栄法律事務所

弁護士 稲 田 正 毅

 

(承前)

3 議論の経過

(1)経過一覧

 法制審議会における審議の状況は、以下のとおりである。

 

 ア 複数の法律行為の無効について

会議等 開催日等 資料
第11回
第1読会(9)
H22.6.29開催 部会資料13-1、13-2(詳細版)
第23回
論点整理(3)
H23.2.8開催 部会資料23
第26回
論点整理(6)
H23.4.12開催 部会資料26
中間的な論点整理 H23.4.12決定 中間的な論点整理の補足説明
部会資料33-5( 「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対して寄せられた意見の概要(各論4))
第29回
ヒアリング
H23.6.28開催 日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)の説明資料「「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見書~消費者の観点から~」、「補足説明資料」
第32回
第2読会(3)
H23.9.20開催 部会資料29
第64回
中間試案(1)
H24.12.4開催 部会資料53
中間試案 H25.2.26決定 中間試案の補足説明(取り上げられず)

 

 イ 複数契約の解除について

会議等 開催日等 資料
第4回
第1読会(2)
H22.2.23開催 部会資料5-1、5-2(詳細版)
第21回
論点整理(1)
H23.1.11開催 部会資料21
第25回
論点整理(5)
H23.3.8開催 部会資料25
第26回
論点整理(6)
H23.4.12開催 部会資料26
中間的な論点整理 H23.4.12決定 中間的な論点整理の補足説明
部会資料33-2(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(各論1))
第29回
ヒアリング
H23.6.28開催 日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)の説明資料「「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見書~消費者の観点から~」、「補足説明資料」
第39回
第2読会(10)
H24.1.17開催 部会資料34
第65回
中間試案(2)
H24.12.18開催 部会資料54
民法(債権関係)の改正に関する中間試案 H25.2.26決定 民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明
部会資料71-3(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(各論2))
第78回
第3読会(5)
H25.10.8開催 部会資料68-A

 

(2)立法が見送られた経過

  1. ア 第1読会
  2.    複数契約の解除についての部会資料は、「同一当事者間の複数の契約について、そのうちの一つの契約の不履行に基づき複数の契約全体の解除を認めた判例(最判平成8年11月12日民集50巻10号2673頁)を踏まえて、複数契約における一つの契約の不履行に基づく複数契約全体の解除に関する規定を置くことが望ましいという考え方があるが、どのように考えるか。」[1]という規定の要否についての問いかけであった。
  3.    この点について、同一当事者間の複数契約全体の解除に関する規定を設けることにはほぼ異論はなく、消費者保護の観点から、同一当事者間のみならず異なる当事者間の複数契約における解除に関する規律を設けることについて積極的に検討すべきとの意見[2]があった。他方、同一当事者間という縛りがなくなったときに解除が無限に波及することの懸念が述べられ、平成8年最判事例からその要件を抽出することについては慎重な検討が必要であることの指摘[3]もされた。
  4.    また、複数の法律行為の無効についての部会資料は、「法律行為が無効になるとしても、原則として、それが他の法律行為の有効性に影響することはないと考えられるが、複数の法律行為が相互に密接な関連性を有する場合には、そのうちの一つが無効になれば他の法律行為も無効になる場合があるとの指摘がある。判例にも、解除の事案についてではあるが、同一当事者間の複数の契約について、そのうちの一つの契約の不履行に基づき複数の契約全体の解除を認めたものがある。このような判例等を踏まえ、密接な関連性を有する複数の法律行為の一つが無効になった場合において、当該法律行為が無効であるとすれば当事者が他の法律行為をしなかったと合理的に考えられるときは、当該他の法律行為も無効になることを明文で規定すべきであるとの考え方が提示されているが、どのように考えるか。」とされ[4]、一定の要件の提案が示された。
  5.    これについては、同一当事者間の複数の法律行為か、異なる当事者間の複数の法律行為かを切り分けて整理する必要性の指摘[5]、複数契約の解除の規律との整合性が必要であるとの指摘[6]、そもそも複数の法律行為か一つの法律行為かが争われることが予想されることから複数の法律行為と峻別された場合についての規律を設けることが法的安定性に資するという指摘[7]などがされた。また、「密接な関連性」という要件の曖昧さや取引の安全の観点からの反対意見[8]が述べられた。他方、消費者保護の観点からの積極意見[9]に加え、判例で述べられた「密接関連性」を条文で明確に提示することについて積極的意義も指摘[10]された。
  6.  
  7. イ 中間的な論点整理
  8.    第1読会を経たうえ、中間的な論点整理を作成するについては、「複数契約の解除」及び「複数の法律行為の無効」のいずれについても、賛否両論[11]があることを前提にした記載に変更することが求められ、また、同一当事者間か異なる当事者間かの違い、取引安全についての指摘、無効と解除の場合の整合性への留意なども反映するものとし、それぞれ以下のような内容にて、論点整理されるに至った。

 

 中間的な論点整理(第5、5複数契約の解除)

 同一当事者間の複数の契約のうち一つの契約の不履行に基づいて複数契約全体の解除を認めた判例(最判平成8年11月12日民集50巻10号2673頁)を踏まえて、一つの契約の不履行に基づく複数契約全体の解除に関する規定を新たに設けるべきであるという考え方に関しては、これを支持する意見と適切な要件設定が困難であるなどとして反対する意見があった。また、仮に明文化する場合における具体的な要件設定に関しては、複数契約が同一当事者間で締結された場合に限らず、異なる当事者間で締結された場合も規律することを検討すべきであるという意見があったのに対し、複数契約の解除を広く認めることが取引実務に与える影響を懸念する意見もあった。これらを踏まえて、適切な要件設定か可能か否かという点並びに複数の法律行為の無効に関する論点(後記第32、2(3) )及び抗弁の接続に関する論点(後記第44、5)との整合性に留意しつつ、一つの契約の不履行に基づいて複数契約全体の解除を認める規定を設けるという考え方の採否について、更に検討してはどうか。

 

 中間的な論点整理(第32、2(3) 複数の法律行為の無効)

 ある法律行為が無効であっても、原則として他の法律行為の効力に影響しないと考えられるが、このような原則には例外もあるとして、ある法律行為が無効である場合に他の法律行為が無効になることがある旨を条文上明記すべきであるとの考え方がある。これに対しては、適切な要件を規定することは困難であるとの指摘や、ある法律行為が無効である場合における他の法律行為の効力が問題になる場面には、これらの契約の当事者が同じである場合と異なる場合があり、その両者を区別すべきであるとの指摘がある。そこで、上記の指摘に留意しつつ、例外を条文上明記することの当否について、更に検討してはどうか。

 例外を規定する場合の規定内容については、例えば、複数の法律行為の間に密接な関連性があり、当該法律行為が無効であるとすれば当事者が他の法律行為をしなかったと合理的に考えられる場合には他の法律行為も無効にな ることを明記するとの考え方があるが、これに対しては、密接な関連性という要件が明確でなく、無効となる法律行為の範囲が拡大するのではないかとの懸念を示す指摘や、当事者が異なる場合に相手方の保護に欠けるとの指摘もある。そこで、例外を規定する場合の規定内容について、上記の指摘のほか、一つの契約の不履行に基づいて複数の契約の解除が認められるための要件(前記第5、5)との整合性にも留意しながら、更に検討してはどうか。

 

  1. ウ 第2読会
  2.    第2読会に先だって行われたヒアリングでは、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会から、「複数契約の解除」及び「複数の法律行為の無効」のいずれについても、これを明文化すべき強い積極的意見[12]が述べられた。
  3.    その後の第2読会において示された提案は、それぞれ次のようなものであった。
  4.    まず、「複数の法律行為の無効」について示された提案は、「法律行為に無効の原因があっても、他の法律行為は、原則としてその効力を妨げられないが、例外として、同一当事者間で複数の法律行為が行われた場合において、そのうちの1つの法律行為に無効原因があることを知っていれば当事者は他の法律行為をしなかったであろうと合理的に考えられるときは、当該他の法律行為も無効となる旨の規定を設けるものとしてはどうか。」というものであった。これは、法律行為の無効が当事者の異なる他の法律行為の無効をもたらす一般的な要件については未だ十分な議論の蓄積があるとまでは言えず、この点については今後の解釈に委ねるものとされ、他方、同一当事者間については、法律行為の一部無効に関する規律と同様の問題であることから、法律行為の一部無効に関する規律と同様の提案を行うものである[13]
  5.    この点については、第32回会議において、当事者は複数の法律行為は別個の法律行為と認識しており当事者の予測可能性の観点から他の法律行為を無効とするについては慎重な検討を要すべきとして反対する意見[14]、「合理的に考えられるとき」という要件ではなく「密接関連性」「相互の不可分性」「相互の依存関係」などといった客観的な要件立てや、当事者の異なる法律関係においても無効になり得る場合の統一的な要件化が必要ではないかという積極意見[15]、法律行為の一部無効と複数の法律行為の無効とでは考慮要素が違うなどという意見[16]などが出された。
  6.    次に、「複数契約の解除」について示された提案は、「同一当事者間で締結された複数の契約について、それらの目的とするところが密接に関連付けられている場合において、一の契約に解除原因があり、これによって複数の契約を締結した目的が全体として達成できなくなったときには、当該複数の契約全部につき法定解除権が行使できる旨の規定を設けるという考え方があり得るが、どのように考えるか。」というものであった。これは、同一当事者間の複数契約の解除についての平成8年最判の趣旨を明文化するものとされた提案である。その一方で、同一当事者間以外の複数契約全体が解除できる場合については、学説の議論が成熟しておらず平成8年最判後の下級審判例の蓄積もなく適切な要件設定が困難であるとして、なお解釈に委ねることとされた。また、契約の個数の捉え方についても、引き続き解釈に委ねるものとされた[17]
  7.    この点については、第39回会議において、次のような意見が述べられた。積極的な意見としては、提案のうち「同一当事者間で締結された」との文言を削除して複数の当事者間の複数契約についても適用可能なルールを明文化することや契約目的の不達成については「社会通念上」という縛りを加えたうえでの明文化を求める意見[18]や、消費者保護の観点から同一当事者間のみではなく複数当事者間の複数契約についてのルールを求める意見[19]があった。他方、判例の蓄積が不十分な現状においては過不足なく要件を条文化することが困難であり、曖昧な要件を条文化すべきでないという根強い反対意見[20]も述べられた。この反対意見に対しては、明文化せずに判例に委ねるということが安定的とは言えず、差し当たっては同一当事者間についての規律の明文化を目指すべきという指摘[21]がなされている。その結果、無効・取消し・解除を通じて引き続き整理検討を継続するものとされた。
  8.  
  9. エ 中間試案
  10.    中間試案作成に向けた検討においては、それぞれ以下のような議論がなされた。
  11.    まず、「複数の法律行為の無効」については、「中間試案のたたき台(1)」において、「取り上げなかった論点」として整理され、明文化はされない提案となった[22]。これについては、弁護士会意見として明文化の要望意見[23]が出されたが、中間試案においても取り上げられることはなかった。
  12.    中間試案における補足説明では、取り上げられなかった理由につき、「ある法律行為が他の法律行為の無効という効果をもたらすために、両者にどのような関係がある必要があるか、当事者が共通の場合と異なる場合とで要件が異なるかなどの問題があり、これらについて十分な意見の一致を見ることができなかったこと」と説明している[24]
  13.    これにより、「複数の法律行為の無効」については、明文化は見送られ、なお解釈に委ねられることとなった。
  14.    他方、「複数契約の解除」については、「中間試案のたたき台(2)」において、「同一の当事者間で締結された複数の契約につき、それらの目的が密接に関連付けられている場合において、そのうち一の契約に債務不履行による解除の原因があり、これによって複数の契約を締結した目的が全体として達成できないときは、相手方は、当該複数の契約の全てを解除することができるものとする。(注)このような規定を設けるべきでないという考え方がある。」と、反対意見の注記が付されたものの、具体的な立法提案がなされた[25]。第65回会議では、複数の法律行為の無効について再度明文化を目指すことについての要望[26]が述べられたほかは、注記された反対意見の反対理由を記載すべきとの指摘[27]や「目的」という用語の整理や更なる要件の明確化の要望[28]が述べられるにとどまった。
  15.    これを受け、示された中間試案は、以下のようなものであった。
  16.    「同一の当事者間で締結された複数の契約につき、それらの契約の内容が相互に密接に関連付けられている場合において、そのうち一の契約に債務不履行による解除の原因があり、これによって複数の契約をした目的が全体として達成できないときは、相手方は、当該複数の契約の全てを解除することができるものとする。(注)このような規定を設けないという考え方がある。
  17.  
  18. オ 第3読会
  19.    中間試案に対するパブリックコメントでは、「複数契約の解除」につき、賛否両論の意見[29]が多数出された。
  20.    パブリックコメントを経たうえで示された「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(3)」において、「複数契約の解除」は、「取り上げなかった論点」として整理され、明文化はされない提案となった。
  21.    これを取り上げなかった理由として、①実務において契約を複数に分けていながら効力を連動させようとする場合には、契約中にその旨を明示するのが通例であって、不明確な要件の下で関連契約全部の解除が認められるのは妥当でない旨の指摘、②最判平成8年11月12日民集50巻10号2673頁は、極めて一体性の高い複数の契約が問題になった特殊な事例であり、この判決の後に同様の法理が妥当するとされた事例の集積が重ねられている状況にはなく、現時点で条文として一般化することが相当であるのか疑問がある旨の指摘、③一つの契約の解除の効果を他の契約に及ぼすかどうかは、契約締結の趣旨や代替品の調達可能性など様々な考慮要素を総合的に判断する必要があるが、様々な考慮要素を適切に要件化することは困難である旨の指摘、④債権譲渡の譲受人が債権を譲り受ける際、当該債権の発生原因である契約と関連する契約の有無及び関連する契約全ての解除原因などを確認する作業が必要となってしまう旨のパブリックコメントにおける指摘を紹介し、当該論点は取り上げないこととし、引き続き解釈に委ねると説明されている[30]
  22.    第78回会議においては、消費者の立場や弁護士会の意見として、せめて同一当事者間の複数契約の解除についての明文化を求める意見[31]が述べられたが、以後、「複数契約の解除」について明文化へ向けたさらなる議論がされることはなく、最終的に、なお解釈に委ねることとなった。

 

4 今後の議論の参考として/所感を含め

(1)立法化の必要性について

 取引が複雑化・高度化した現代社会では、複数の取引関係で成り立つ混合的・複合的な契約事例が多数見受けられる。携帯電話に関する契約(電話の売買と電話事業者との携帯電話利用契約、またこれらに付随するサービス契約など)もその典型例である。ほかにも介護サービス付きを謳う賃貸住宅への入居契約、スポーツクラブ施設の併設を謳うリゾートマンションの売買契約、節税を謳う変額保険への加入契約と融資契約、リース契約を利用する売買契約など極めて多くの取引において存在する。

 とりわけ消費者を対象とした取引においては、消費者保護のための規制が整備される都度、新たな取引形態が現れ、イタチごっこの様相を呈することもある。

 このような混合的・複合的な取引の一部について、その契約等において、無効、取消または解除原因が存在する場合に他の取引部分にどのような影響を与えるかという基本的規律を、明確に示す必要性は高いと言える。

 今回の改正検討は、まさにこの点についての規律を明文化しようというものであったが、前記の経過によって、これが適うことはなかった。

 主として金融、産業界からの意見であった、「明文化によって、あたかも関連する契約はすべて解除できるかのように原則と例外を逆転させるような誤った理解が広まる」、「曖昧な要件を条文化するのであれば条文化しないほうが良い」などといった指摘は説得的とは言えないと感じられる。明文化せずとも、判例で述べられている一定の例外が存在することは明白であるにもかかわらず、これを明文化しないことの弊害は大きい。明文化せずに専門家のみが知るルールで良いのか、個別の紛争において、専ら裁判官個人の尺度に委ねて良いのか疑問があると言わざるを得ない。

 他方、今回の改正議論のなかで浮かび上がり、整理された視点もあり、今後も判例法理の蓄積と学説等による研究検討が継続することを望むところである。

 なお、「契約の一部解除」(改正民法542条2項)という規律が設けられ、契約の一部のみの解除を明確に認めていることやその一部の不履行について契約の全部の解除を認める規律を設けていること(改正民法542条1項3号)は、同一当事者間における取引の一部についての解除原因等が他に及ぶことを前提にした一場面であると言えよう。

 

(2)無効・取消し・解除に共通する問題か

 改正検討過程においては、前記の通り、「複数の法律行為の無効」と「複数契約の解除」としてそれぞれ検討され、提案内容も同一のものとはならなかった。しかしながら、「無効」「取消し」「解除」のいずれの場面についても、ある法律行為(契約)の効力が他の法律行為(契約)の効力に影響を与える場面についての基本的規律は共通するものであり、その規律をあえて変える必要はないと思われる。もっとも、その規律判断において、考慮すべき要素は異なることになろう(たとえば無効原因が公序良俗違反などであれば他の法律行為に与える影響度合いは強くなるものと思われる)。

 改正検討過程においては、リーディングケースとなる「複数の法律行為の無効」についての昭和30年最判の契約の個数の捉え方が不明であったことも影響して、異なる提案内容となったのかもしれないが、やはり同一の規律であるべきと思われる。

 

(3)契約の個数の問題について

 「複数の法律行為の無効」と「複数契約の解除」の検討においては、「契約の個数をどうとらえるのか」という問題がある。同一当事者間の取引において契約の個数を一つと捉えれば、一部無効・一部解除と全部無効・全部解除の問題として捉えられるのに対し、複数の契約と捉えれば、「複数の法律行為の無効」と「複数契約の解除」の問題と捉えることとなるという問題である。

 この点、契約の個数をどのように捉えようと、一部の無効・解除原因が他に影響を及ぼす場合の規律設定は同一であるべきように思われ、契約関係の消滅という場面に限れば、あまり有為な差異があるように思われない。

 

(4)同一当事者間か、異なる当事者間か

 改正検討過程においては、「複数の法律行為の無効」と「複数契約の解除」の問題は、「同一当事者間」か「異なる当事者間(3者以上の当事者間)」かで契約の解消についての規律が同一で良いのかということが問題となった。この点については、当事者が多くなれば当然考慮すべき要素も異なり、したがって、その規律も別であるという考えが多いように思われた。

 たしかに当事者が増えればその考慮すべき利益要素も増えることになる点に何ら異論はないが、契約関係の解消の場面における基本的規律はやはり同一であるように思われる。

 この点、第39回会議で述べられた中井康之委員の意見が、今後の立法における参考になると考える。すなわち、「今回の条文化をする中で、同一の当事者間という文言が要るのかという点について考えることは十分できるのではないか。具体的な条文案を紹介しますと、『複数の契約について、各契約の目的が相互に密接に関連付けられており、社会通念上、いずれかの契約が履行されただけでは契約を締結した目的が全体として達成できない場合において、複数の契約当事者がそれを知っているときは、債権者は、一の契約の債務の不履行を理由に、その複数の契約全部の解除をすることができる。』というものです。今回の資料を基本的には採用しているわけですけれども、頭に同一当事者間のというのがなくても、同一当事者間を想定した条項自体の立案は可能です。だとすれば、あと解釈の問題として複数の契約当事者に拡張できるかどうかは、それこそ、これからの実務若しくは判例に委ねるという考え方ができないものか。現に裁判例の中にも、異なった複数当事者間での複数契約について解除を認めたものがないわけではないので、その道を閉ざした条項に限定することについて、更に考えていただきたい。』(第39回議事録(48頁))というものである。

以上

 


[1] 部会資料5-1(15頁)、部会資料5-2(90頁)

[2] 第4回議事録31頁(深山雅也発言)

[3] 第4回議事録33頁(奈須野太発言)

[4] 部会資料13-1(5~6頁)、部会資料13-2(45頁)

[5] 第11回議事録52頁(岡本雅弘発言)、同53頁(鹿野菜穂子発言)、同54頁(高須順一発言)、同54頁(藤本拓資発言)など。

[6] 第11回議事録53頁(鹿野菜穂子発言)

[7] 第11回議事録54頁(高須順一発言)

[8] 第11回議事録52頁(岡本雅弘発言)、同54頁(藤本拓資発言)、同55頁(奈須野太発言)

[9] 第11回議事録53頁(岡田ヒロミ発言)、同55頁(岡正晶発言)

[10] 第11回議事録57~58頁(道垣内弘人発言)

[11] 金融・産業界側からは消極意見が、消費者側からは積極意見が、それぞれ多く述べられた。

[12] 第29回会議「日本弁護士連合会(消費者問題対策委員会)の説明資料『「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見書~消費者の観点から~』、『補足説明資料』」、第29回議事録44~46頁(池本誠司発言)

[13] 部会資料29(28~31頁)

[14] 第32回議事録40~41頁(岡本雅弘発言)

[15] 第32回議事録43~44頁(中井康之発言)、同44頁(中田裕康発言)

[16] 第32回議事録47~48頁(松本恒雄発言)、48~49頁(沖野眞已発言)、同50頁(鎌田薫発言)

[17] 部会資料34(41~42頁)

[18] 第39回議事録45~46頁、48~49頁(中井康之発言)

[19] 第39回議事録47頁(岡田ヒロミ発言)

[20] 第39回議事録47~48頁(岡本雅弘発言)

[21] 第39回議事録48頁(中田裕康発言)

[22] 部会資料53(27頁)

[23] 第64回議事録34頁(岡正晶発言)

[24] 中間試案の補足説明(51頁)

[25] 部会資料54(3頁)

[26] 第65回議事録9頁(中井康之発言)

[27] 第65回議事録11頁(三浦聡発言)

[28] 第65回議事録11頁(中田裕康発言)

[29] 部会資料64-6(54~57頁)

[30] 部会資料68-A(43~44頁)

[31] 第78回議事録47~48頁(岡田ヒロミ発言)、同48頁(高須順一発言)

 


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(いなだ・まさき)

弁護士(大阪弁護士会所属)、関西学院大学大学院司法研究科教授、大阪大学大学院高等司法研究科招へい教授。
主たる業務分野は、事業再生、企業倒産、ベンチャー・中小企業支援、企業法務、M&A、商取引契約、不動産取引契約など。
著書等として、大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務解説 民法改正――新たな債権法下での指針と対応』(民事法研究会、2017)分担執筆、潮見佳男ほか編著『Before/After 民法改正』(弘文堂、2017)分担執筆、稲田正毅ほか「(改正民法対応)これだけは押さえておきたい担保の知識」SMBCコンサルティング 実務シリーズNo.210(2018)など。

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