◇SH3482◇フィリピン:小売業に関する外資規制の概要と改正動向(1) 坂下 大(2021/02/10)

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フィリピン:小売業に関する外資規制の概要と改正動向(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 フィリピンでは長らく外資による小売業への参入が完全に禁止されていたが、2000年に小売自由化法(the Retail Trade Liberalization Act of 2000)が施行され、現在は一定の条件の下で小売業への外資参入が認められている。もっとも、同法の下でも、小売業者の大多数を占める中小零細事業者保護の観点から、小売業への外資参入には比較的高い障壁が設けられており、そのために小売業への投資を見送ったり、フランチャイズやライセンス等の他の手法を検討したりせざるを得ない外国投資家の例も見られるところである。本稿では、以下のとおり小売自由化法が定める小売業への外資参入規制の概要を紹介し、次稿においてその改正動向を紹介する。

 

(1)払込資本金額等と外資による出資の可否

 払込資本金額が250万米ドル(約2億6,000万円)未満の小売業は、外資による出資は一切不可とされている。他方で、払込資本金額が250万米ドル以上の小売業については、外資出資比率に関する制限は存在せず、外資による100%出資も可能である(但し、後述の株式の公開義務の項目も参照。)。この場合、高級品等に特化する場合を除き、1店舗あたりの投資(固定資産や棚卸資産を含む。)の額が83万米ドル(約8,700万円)以上であることも必要である。なお、小売業とは、一定の例外を除く、物品を公衆に直接販売する活動をいうものと定義されている。

 

(2)外国投資家に求められる要件

 外国投資家(本項の要件との関係では、100%フィリピン内資ではない者をいう。)は、以下の要件を充足する者でなければならない。これらの点は、小売業への投資(新会社の設立や既存会社の買収等)を行うにあたり当局の事前審査の対象となる。既にフィリピン国外で小売業の実績がある大規模な事業者が想定されている。

  1. ・ 純資産が2億米ドル(約210億円)以上であること(高級品等に特化する者の場合は5,000万米ドル以上)
  2. ・ フィリピン国外において5つ以上の店舗又はフランチャイズを有するか、2,500万米ドル以上の資本を有する店舗を1つ以上有すること
  3. ・ 5年以上の小売業の実績があること
  4. ・ フィリピン国民が小売業を行うことを認めている国から投資を行うものであること(いわゆる相互主義)

 

(3)株式公開義務

 外資出資比率が80%を超える小売業者は、事業開始から(事業開始後に外資出資比率が80%を超えた場合は当該超過時からと解される。)8年以内に、その株式の30%以上をフィリピン国内市場において公開しなければならない。

 

(4)国内調達義務

 外資の出資を受けた小売業者は、仕入れの30%以上(コストベース)をフィリピン国内で調達することが求められる(高級品等に特化する場合は10%以上)。

 


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(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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