◇SH3556◇ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第1回 独立社外取締役制度のサステナビリティ 佐鳥竜太(2021/03/30)

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ガバナンスの現場――企業担当者の視点から
第1回 独立社外取締役制度のサステナビリティ

三菱HCキャピタル株式会社
ガバナンス統括部 ガバナンス企画グループ

部長代理 佐 鳥 竜 太

 

 「『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』意見書(2020.12.8)」を受けて、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の2021年改訂において、東京証券取引所「プライム市場(仮称)」上場会社に対し独立社外取締役を三分の一以上要求するであるとか、必要に応じて過半数を求めるといった情報が、憶測含みの報道やSNS等の議論を交え、コーポレート・ガバナンス界隈の話題を席巻したのは記憶に新しいところである。

 これまでのCGコードが我が国企業、ひいては経済にもたらした成果、またコーポレート・ガバナンスを巡る議論の発展が我が国の会社法・関連法規等の進化を促進していることについては、緒論あるところではあろうが、少なくとも筆者は肯定的に捉えており、またそれが多数意見であろうと実務を通じ実感しているところである。

 しかし、一企業に身を置き、いわゆる機関法務、コーポレート・ガバナンス関連の企画を立案する立場である筆者として、現在の独立社外取締役を巡る議論においては、その制度に係るサステナビリティの視点が欠如していることが懸念されてならない。

 すなわち、時を経るにつれて、20年後、30年後、経営経験者の独立社外取締役候補者人材は著しく減少し、士業、研究者、官僚等他業出身人材が中心とならざるをえないことが推測されるが、そうした状態は果たして適切であろうか[1]、との問題意識である。

 我が国企業は、長きに亘り一般の従業員から管理職、上級管理職等を経て取締役に昇進するというキャリアパスが標準であった。現在、経営者出身の独立社外取締役としてご活躍の諸氏も、漏れなくこうしたパスを経て経営経験を積み、他社で独立社外取締役に就任されていることであろう。

 こうしたキャリアパスの慣行があったからこそ、現在、独立社外取締役を担える人材が社会的に確保されているのである。

 取締役会の肥大化は経営効率・意思決定の速度の観点から避けるべきとの前提の下、社内取締役を望ましくないものとして減員すれば、当然に今後は時を経るに連れていわゆる「会社員」が「取締役」となる枠が減少する一方であり(むしろ、既に明らかに減少しているといえよう)、いずれは、経営経験者の独立社外取締役候補者は極めて希有な存在となることは言を俟たず、独立社外取締役を中心とする取締役会の制度そのものの崩壊を招来することが想定される。

 こうした懸念に対しては、たとえば働き方改革と絡んだ副業の促進や、ベンチャー企業等への積極的な支援により経験者が確保できるのではないかとの指摘も考えられるであろうが、副業による経営参画やベンチャー企業の経営と、東証一部上場会社等のいわゆる「大企業」の経営においては備えるべき能力・経験等は異なり、「経営」と十把一絡げに経験者として扱えるものではなく、「大企業」における経営経験を保持する者を確りと育成・確保することが肝要であると思うところである。

 また、たとえば米国では大半の企業の取締役会において独立社外取締役が過半数を占め、特にS&P500構成銘柄の6割がCEOを除き独立社外取締役であって、それで継続性ある人材の循環が為されているのだから、我が国においても問題なかろうとの指摘も想定される。しかし、米国は三委員会を設置したモニタリングモデル、本邦会社法で言うところの指名委員会等設置会社の制度が定着し、社内の業務執行を担うOfficerの育成・確保がなされているからこそ、社外で監督機能を担うDirectorへのシフトの循環が上手く形成されているのであって、我が国の企業における指名委員会等設置会社の比率を考えれば、同等に考えられるものではない。我が国で圧倒的多数を占める監査役会設置会社、監査等委員会設置会社において「役員」として業務執行の責を担うのは言うまでも無く取締役であり、執行役員が、そこから社外において独立社外取締役の責を担うことはハードルが高く、またリクルートの面でも採用側は不安を抱くことになろう。

 そうした側面からも、会社法上の「役員」として業務執行の責を直接的に負う社内取締役経験者の確保は、将来の独立社外取締役人材の確保のために必須であると考える。

 行政当局、フォローアップ会議等ご関係者におかれては、こうした「独立社外取締役制度のサステナビリティ」にも目を向けた「独立社外取締役となるべき人材の育成」に関する発信をお願いしたい。また各企業においても、単に社内取締役を減員し、社外取締役を増員する(またはその比率のみを増加させる)ような、フルコンプライありきの形骸化したCGコード対応ではなく、確固とした自社プロパーの「社内取締役育成計画」をもって質・量ともに豊かな人材を育成していただきたい。社内取締役がCGコードを理由に減員されず、そうした人材が自社での活躍を経て社外で独立社外取締役として活躍し、我が国経済全体の発展に繋がるといった好循環が形成される仕組み作りをお願いしたいと願うところである。

以 上



[1] こうした他業人材の独立社外取締役としての有意性は、勿論特定分野においてあることは確かであろうが、独立社外取締役が他業人材のみであることが望ましくなく、あくまでも「経営経験者」を中心とすべきであることは、会社法施行規則第74条第4項第6号が、社外取締役または社外監査役以外の方法で会社の経営に関与していない候補者についてそれでもなお「社外取締役としての職務を適切に遂行することができる」と会社が判断した理由の記載を求めていることからも明白ではなかろうか。

 


(さとり・りゅうた)

中央大学法学部法律学科、Florida Coastal of Law LL.Mを経て、2009年日立キャピタル株式会社入社。同社法務部契約法務グループにおいて新商品開発、M&A、事故対応等を中心に扱うとともに、専攻である会社法知識を活かし、株主総会実務等の機関法務を兼務。コーポレートガバナンス・コード公表に先駆け、2013年より同社のコーポレートガバナンスに係る経営に対する問題提起、設計思想・体制の整備等を主導し、2020年4月より現職。経営法友会主催の会社法研究会に参画し、各種パブリックコメントの作成・書籍改訂等に関与している。

 

本欄の概要と趣旨

  1.   SH3555 ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第0回 連載開始に当たって 旬刊商事法務編集部(2021/03/30)

 

旬刊商事法務のご紹介

「社外取締役」をテーマとする掲載記事例

  1.   田中 亘 「コーポレートガバナンス改革の本質を問い直す〔上〕Ⅰ 社外役員の意義と職責」旬刊商事法務 2215号
    社外役員の意義(効用)と職責(役割)について、最新の実証研究等の知見も参照しつつ、本質的かつ平易に語られた経営法友会での講演内容を加筆修正して掲載。

その他の直近掲載内容

  1.  • 編集部「2020年商事法務ハイライト」旬刊商事法務 2250号
    編集部による座談会形式で2020年の掲載内容と編集部の取組みを振り返る年末号の掲載記事です。すべてご覧いただけます。
  2.  • 2020年下期索引
  3.  • 2021年までの目次一覧

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