◇SH3255◇中国:「民法典」の制定と契約編(後編) 川合正倫(2020/07/29)

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中国:「民法典」の制定と契約編(後編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

事情変更の原則

 契約法の司法解釈(二)においては、事情変更の原則について「不可抗力によらないこと」が要件とされていたため、不可抗力と事情変更の原則の適用関係について議論があった。民法典では、当該要件が削除されたため、一方当事者に契約上の義務の履行を強制することが公平性を欠く極限的な場面において、より柔軟な処理が可能となる。

 

契約法の司法解釈(二)

 

民法典

 

第二十六条 契約成立後の客観的情況に、当事者が契約締結時に予見不能であり、不可抗力によらず、商業リスクに該当しない重大な変化が発生し、契約の履行を継続することが一方当事者に対して明らかに不公平であり、又は契約の目的の実現が不可能なとき、当事者が人民法院に契約の変更又は解除を求める場合、人民法院は、公平原則に基づき、案件の実際情況を踏まえて、変更又は解除する。 第五百三十三条 契約成立後、契約の基礎条件に、当事者が契約締結時に予見不能であり、商業リスクに該当しない重大な変化が発生し、契約の履行を継続することが一方当事者に対して明らかに不公平である場合、不利な影響を受ける当事者は改めて相手方と協議することができる。合理的期間内に協議が成立しない場合、人民法院又は仲裁機構に契約の変更又は解除を求めることができる。 人民法院又は仲裁機構は、公平原則に基づき、案件の実際情況を踏まえて、変更又は解除する。
 

 

契約保全制度の整備

 現行法では、契約保全に関しては契約法73条から75条及び契約法の司法解釈(一)及び(二)における限定的な内容に留まっていた。一方で、実務では債務者による悪質な債務逃れ等が頻発しており、これらの状況下で債権者を保護する必要性が高まっていた。そこで、民法典では、債権者代位権及び債権者取消権を「契約の保全」と位置づけ、債権者保護の規定を充実化させている。具体的には、債権者代位権の対象となる権利を債権から関連する権利に拡げ、また、一定の状況下では代位権を事前行使することも認めた。債権者取消権との関係では、債務者による他者への担保提供行為を詐害行為の類型に追加したことに加え、譲受人の主観的要件を「知っていた場合」から「知りうべき場合」まで拡大し、債権者の保護を図っている。また詐害行為取消権が行使された場合の効果は、当初から法的拘束力が存在しないこととされた。

 

契約法
民法典
第七十三条 債務者が、期限が到来した自己の債権の行使を怠り、債権者に損害を与える場合、債権者は、人民法院に自己の名義で代位によって債務者の債権の行使を請求することができる。但し、当該債権が債務者の一身に専属する場合を除く。
(略)
第五百三十五条 債務者が自己の債権の行使又は当該債権に関連する従属権の行使を怠り、債権者の期限が到来した債権の実現に影響を与える場合、債権者は、人民法院に自己の名義で代位によって債務者の相手方に対する権利の行使を請求することができる。但し、当該権利が債務者の一身に専属する場合を除く。
(略)
(新設) 第五百三十六条 債権者の債権の期限到来前であっても、債務者の債権または当該債権と関連する従属権利の訴訟時効期間が間もなく満了する又は破産債権を速やかに届出ない等の事情があり債権者の債権実現に影響がある場合、債権者は、代位によって、債務者の相手方に対する債務者への履行請求、破産管財人に対する届出、その他必要な行為を行うことができる。
第七十四条 (略) 債務者が明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、債権者に損害を与え、かつ譲受人が当該状況を知っている場合、債権者は人民法院に対し、債務者の行為の取消を請求することができる。
(略)
第五百三十九条 債務者が明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、明らかに不合理な高価格で他人の財産を譲り受け、又は、他人の債務に担保を提供し、債権者の債権実現に影響がある場合で、債務者の相手方がこれを知り又は知りうべき場合、債権者は人民法院に債務者の行為の取消を請求することができる。
(新設) 第五百四十二条 債務者の債権者の債権実現に影響を与える行為が取り消された場合は、当初から法的拘束力が存在しない。
 

 

解除権の行使期限

 解除権の行使期限について契約の定めがない場合について、解除権者が解除事由を知った日又は知りうべき日から1年間という期限が明記された。

 

契約法
民法典
第九十五条 (略) 解除権の行使期限につき、法律に定めがなく、また、当事者が約定していない場合、相手方からの催告から合理的期限内に行使されない場合、当該権利は消滅する。 第五百六十四条 (略) 解除権の行使期限につき、法律に定めがなく、また、当事者が約定していない場合、解除権者が事由を知るか又は解除事由を知りうべき日から一年間に渡って行使しない場合又は相手方からの催告から合理的期限内に行使しない場合、当該権利は消滅する。
 

 

以上

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