タイ:下請代金の支払遅延防止に関する新規制(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
(2)本規則4条
以下の定めに反する、中小企業との間の与信期間に関する取り決めは、中小企業に対する不公正な取引慣行にあたるものとみなされる。
- ・ 事前の合意がない限り、商業、製造及びサービスにおける事業活動については、与信期間は45日を超えてはならない。
- ・ 事前の合意がない限り、農産物又は農産物の一次加工(複雑でない加工工程によるもの)の商業、製造及びサービスにおける事業活動については、与信期間は30日を超えてはならない。
- ・ 上記と異なる与信期間が設定される場合、契約において、事業、市場又は経済の観点から受け入れ可能な理由がなければならない。
45日又は30日を超える与信期間を合意する場合には一定の理由が必要とされているが、現時点では、どのような事情がかかる理由となり得るのかは定かではないため、特別な事情がない限りは、保守的に考えて、与信期間を45日又は30日以内に設定するのが無難な対応と言えよう。また、与信期間の計算は、合意された商品又はサービスの数量、種類、品質基準に従い、商品又はサービスが引き渡され、正確な書類提出(条文上は明記されていないが、受領証や検収書類の発行を意味しているものと思われる)が完了した日から開始される。
(3)本規則5条
与信期間に関する以下の行為は、不公正なものとみなされる。
- ・ 合理的根拠なく、合意された与信期間内の支払いを遅滞すること
- ・ 合理的な根拠なく、また、60日前までに通知せずに、与信期間又はその他の契約条件の変更を行うこと
- ・ 与信条件についての特約など、中小企業たる事業者に不公正を強いるその他の行為で、契約相手方等に不必要な負担を生じさせるもの
違反の効果
本規則に違反する不公正な行為を行った場合、取引競争法57条違反に該当しうる。取引競争法上、57条違反の効果としては、以下の点が規定されている。
- ① 排除措置命令(60条):違反行為の停止、中止、是正又は変更を求める命令の対象となり得る。
- ② 行政罰(82条):年間売上の10%以下の行政罰の対象となり得る。
- ③ 民事責任(69条):違反により損害を被った者は、損害賠償請求訴訟を提起することができる。
事業者が今後採るべき対応
タイ国内に下請先又は仕入先を有する企業は、今後、12月の施行に向けて、本規則の遵守のための体制を整える必要がある。具体的には、下請先及び仕入先の中に中小企業に該当する事業者が含まれていないかを確認した上で、与信期間に関する合意内容が本規則に沿ったものとなっているか確認する必要があると思われる。また、本規則に関する解釈指針等は示されておらず、施行後にどの程度厳密に運用されるのかは定かではないため、今後の運用状況についても注視が必要と思われる。
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(ささき・しょうへい)
長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。
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