公取委、デジタル市場における競争政策に関する研究会 報告書
「アルゴリズム/AIと競争政策」を公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 臼 杵 善 治
1 はじめに
公正取引委員会(以下「公取委」という)は、アルゴリズム/AIと競争政策をめぐる課題・論点を検討するために、2020年7月以降「デジタル市場における競争政策に関する研究会」を8回開催し、2021年3月31日に「デジタル市場における競争政策に関する研究会報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」(以下「本報告書」という)を取りまとめ、公表した[1]。
アルゴリズム(計算手法)やAI(人工知能)は、デジタル市場におけるイノベーションのプロセスの鍵となる技術といわれており、事業活動を効率化させ、消費者の利便性を向上させているが、一方で、このような新たな技術を用いた反競争的行為について、海外当局が措置を講じた事例も出てきている[2]。また海外の競争当局や国際機関でアルゴリズムやAI(人工知能)と競争政策に関する議論や研究が活発に行われ、多数の報告書が公表されている[3]。
このような状況のもと、本報告書では、現時点で競争に重要な影響を与え得ると考えられるアルゴリズム/AIとして、価格調査や価格設定のアルゴリズム、ランキングおよびパーソナライゼーション(特にパーソナライズド・プライシング)の3つを取り上げて、それぞれについて想定される競争政策上の課題や論点の検討が行われている。以下では、価格調査や価格設定のアルゴリズムによる協調的行為の論点について簡単に紹介することとしたい。
2 アルゴリズム/AIと協調的行為
⑴ 検討における分類
アルゴリズム等のデジタル技術を用いた価格調整行為は、デジタルカルテルと呼ばれ、このような行為が競争法上問題となるか様々な議論がなされている。
本報告書では、アルゴリズムによる協調的行為をOECDの報告書[4]の以下の4分類に分けて検討を行っている。
① 監視型アルゴリズムを利用した協調的行為
② アルゴリズムの並行利用による協調的行為[5]
③ シグナリングアルゴリズムを利用した協調的行為
④ 自己学習アルゴリズムによる協調的行為
(出典:公取委「デジタル市場における競争政策関する研究会 報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」(概要) 」5頁[6])
⑵ 各類型に対する独占禁止法の適用可能性および課題
独占禁止法の不当な取引制限が成立するためには、競合事業者間に相互に「意思の連絡」があることが必要とされているところ、いわゆるデジタルカルテルについては、競合当事者間のコミュニケーションがなく、自動的に調整行為が行われることになるため、独占禁止法の不当な取引制限が成立しないのではないかという議論がなされていた。
本報告書では、アルゴリズムによる協調的行為の各類型のうち、④自己学習アルゴリズムの場合を除き、独占禁止法により対応可能な場合が多い、つまり不当な取引制限として摘発が可能と整理がされている。以下、本報告書における各類型についての独占禁止法の適用可能性に関する記載の要点をまとめた。
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(うすき・よしはる)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2003年慶應義塾大学法学部卒業。2006年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第一東京)。2015年University of London, LL.M. in Competition Law修了。公正取引委員会による審査手続対応、海外当局による調査手続対応、国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポート、競争法コンプライアンスマニュアル作成・競争法コンプライアンストレーニング等の多数の案件を取り扱っている。
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