SH4773 文化審議会著作権分科会法制度小委員会、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の公表 中崎尚(2024/01/18)

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文化審議会著作権分科会法制度小委員会、
「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 中 崎   尚

 

1 はじめに

 AIと著作権をめぐっては、わが国では、平成30年(2018年)の著作権法改正において、「柔軟な権利制限規定」[1]として著作権法(以下「法」と記載する場合がある)第30条の4及び第47条の5が導入され、「機械学習天国」とも呼ばれる、世界でも類を見ないAI学習向けの環境が整えられた。当時も生成AIが将来登場することは想定されていたものの、世間には膾炙しておらず、ここまで激烈な反対運動も見られなかった。

 2022年後半からの生成AIのブームにより、状況は一変した。とりわけ画像生成AIについては、著作物たる画像作品がアーティストの知らぬところで学習され、オリジナル作品とよく似たAI生成物が利用されてしまう事案が多発するようになった。その結果、多くの権利者団体が、著作権法第30条の4を始めとする著作権法のあり方について見直しを求める動きを活発化させ、2023年7月より、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下「小委員会」という)において、AI時代の著作権法のあり方についての検討が開始されるに至った。小委員会の審議では、生成AIの活用の推進派、抑制派双方の主張が繰り広げられ、2023年12月20日、令和5年度第5回の小委員会の資料として、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」[2](以下「素案」という)が示された。素案では、主に生成AIを念頭に、無許諾でAI学習が許容される範囲のみならず、著作権侵害の有無の考え方、AI生成物の著作物としての保護の有無について、踏み込んだ議論が示されている。

 素案は全19頁と短くまとめられているが、かなり密度の濃い内容となっており、限られたスペースでそのすべてを網羅的に説明するのは難しい。本記事ではホットイシューの論点を中心に素案のポイントを紹介する。なお、あくまで素案であり、今後パブリックコメントも予定されているので、随時最新情報を参照されたい。

 

2 素案の構成

 素案は、生成AIに関する著作権の論点について、学習・開発、生成・利用の段階に分けて検討するとともに、生成AIの出力結果の著作物性を検討する。

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

 

<事務所概要>
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