◇SH3598◇ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第5回 取締役会と業務執行部門をどう繋ぐか 片倉 直(2021/04/27)

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ガバナンスの現場――企業担当者の視点から
第5回 取締役会と業務執行部門をどう繋ぐか

横河電機株式会社

取締役会室長 片 倉   直

 

1 はじめに

 コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)では、取締役会の主な役割と責務として、以下の3点が挙げられている。

  1. ⑴ 企業戦略等の大きな方向性を示すこと(原則4-1)
  2. ⑵ 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと(原則4-2)
  3. ⑶ 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと(原則4-3)

 取締役会事務局(以下「事務局」という。)は、取締役会で決められた方針、指示、宿題事項等を代表取締役社長以下、業務執行部門に伝達するとともに、業務執行部門がこれらを確実に検討、企画立案、業務への反映等をしているかどうかの進捗確認を行い、取締役会議長に報告、必要に応じて取締役会の議題に組み込むといった役割が重要になってきている。

 

2 取締役会と業務執行部門とを「繋ぐ」難しさ

 日本のCGコードはコーポレートガバナンスにおける取締役会の責務・あり方を中心に、会社が取り組むべき内容を網羅的にまとめており、自社のガバナンスを体系的に整理・管理するのに、非常に有効なツールとして活用できると考えている。

 しかしながら、自社のガバナンスを体系的に整備しようとすると、「企業理念」から始まり、これを前提として「取締役会のあり方(議論すべき内容、選任プロセス、報酬決定プロセス等)」「株主をはじめとするステークホルダーとの関係」「SDGsをはじめとする社会貢献」「適切な情報開示」等多岐にわたる項目をそれぞれ検討する必要がある。また、ガバナンスの対象も年々広がってきていると感じている。これらの内容は、業務執行部門の専任部署がそれぞれ担当しているのが普通であることから、これらの情報を収集し、統一性を担保してまとめ上げるのは、どこの会社においても大変な労力がかかっていると思われる。

 このように、「取締役会」と「業務執行部門」を繋ぎ、全社のコーポレートガバナンスの考え方をまとめ上げるのは、実務的に難しい面がある。今回は自社のガバナンスの向上、ひいては中長期の企業価値に向上に寄与する「繋ぎ」の方法について、事務局の立場で愚見(※)を申しあげる。

(※) 本稿はあくまでも筆者の個人的見解であり、筆者の所属会社の見解ではない。

 

3 事務局の問題意識

  1. ⑴「取締役会」と「業務執行部門」のギャップ
  2.    取締役会は、さまざまな議論を通じて、中長期の企業戦略、リソース配分等について方向性を決定し、業務執行部門を監督している。特に社外取締役の意見や指摘には自社では思いもつかないような気付き、経営(業務執行部門)に対する適切な助言等が多々あり、取締役会の機能向上に大きく貢献していると感じている会社は多いのではないか。一方、これらの意見等の中には、自社の従業員のレベルやリソースではその実現が困難なものもあり、ギャップが生じることも多々ある。
     
  3. ⑵ ガバナンスに関する情報が各部署に分散
  4.    で前述したとおり、ガバナンスの情報は業務執行部門の各部署に分散している。これらを取締役会の方針、社会からの要請等に基づき、各部署が具体化や改善を行い、実務に落とし込むのも大変であるが、情報を収集し、統一性のある内容にまとめ上げるためには、全体を俯瞰する取りまとめ役が必要となる。また、⑴で生じたギャップについても、今後どのようにこれを解消していくか、ロードマップを作成し、計画的、段階的に行っていくことにより、業務執行部門に過度な負担や工数を強いることなく、解決できるものと考える。

 

4 原因と解決策

  1. ⑴ 社外役員に対する情報提供、トレーニング
  2.    社外役員の意見、指摘、提言等はガバナンスの向上、経営品質の向上の両面において非常に有効かつ付加価値が高いものが多い。これをさらに高めるためには、社外役員に自社(企業風土、ビジネス、従業員のマインド等)について理解を深めていただくことが重要である。各種情報提供やトレーニングの実施により、社外役員の意見、指摘、提言等はより自社の実態に則した内容となり、ギャップの解消に繋がると考える[1]
     
  3. ⑵ 社内のガバナンスに関する情報連携の仕組みづくり
  4.    CGコード、社外文書の開示案作成には多くの部署が関与するのが一般的と思われるが、これを効率的に作成する、実務上対応可能な内容にする、統一性を持たせるためには、その仕組みづくりが重要である。
     当社では経営管理担当取締役の私的機関として取締役会事務局、経営管理、秘書、IR、SDGs、法務、経理の各部署の実務担当者で構成する「CGワーキンググループ」を設置し、その中で、取締役会での審議内容の情報共有、その内容に基づく実務上の対応検討等を行い、必要に応じて代表取締役に報告、取締役会に付議する等をしている。このような形態を採っているのは、実務対応を重視しているのが最大の理由であるが、組織や担当者変更にも柔軟に対応できる、さらに機動性や継続性も重視している。
     他社では、社外取締役をメンバーに含む「ガバナンス委員会」の設置、バーチャル組織やプロジェクト体制で対応しているケースもあると聞いている。いずれも正しいアプローチである。重要なのは、目的達成のため、自社に適した仕組みにすることである。

 

5 最後に

 コーポレートガバナンス、そしてその中心的役割を担う取締役会を機能させ、「中長期の企業価値の向上」を実現するためには、「取締役会」が「業務執行部門」の状況を理解し、現状、実態に見合った適切な方向性や方針を示し、業務執行部門は確実にこれらを具体化、実行に移すことが重要である。事務局は、両者の「繋ぎ役」として相互の理解を深める役割がますます重要になってくると思われる。

 「社外役員に自社のビジネスや状況を理解していただく」「取締役会と業務執行部門のコミュニケーションを深める」機会の提供等が、地道ではあるが、解決の近道であると考えている。

以 上



[1] 中村直人=倉橋雄作「第2回取締役会事務局アンケート集計結果の分析〔Ⅱ〕」旬刊商事法務2238号(2020)P68~69(図表34~37)参照。

 


(かたくら・ただし)

中央大学卒業後、1990年4月に横河電機株式会社に入社。入社後は、主に本社部門(人事・法務は除く)を中心に、国内営業部門、事業部門(国内、海外)、国内子会社の経営管理部門等、各種経営管理スタッフ・現場サポートスタッフを経験。2016年4月に経営企画部から取締役会事務局機能が分離独立し、取締役会室が新設され、初代の取締役会室長に就任、現在に至る。

 

取締役会事務局の実務
──コーポレート・ガバナンスの支援部門として

 

 

本欄の概要と趣旨

  1.   SH3555 ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第0回 連載開始に当たって 旬刊商事法務編集部(2021/03/30)

 

旬刊商事法務のご紹介

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  1.   片倉直=竹安 将=南部昭浩=藤原幸一=倉橋雄作「〈座談会〉取締役会事務局のあり方と取組み」旬刊商事法務 2254号2255号2257号2258号
    ガバナンス改革を経たうえでの取締役会事務局のあり方と取組みについて、企業の取締役会事務局責任者が議論。4回にわたって掲載。

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  1.  • 編集部「2020年商事法務ハイライト」旬刊商事法務 2250号
    編集部による座談会形式で2020年の掲載内容と編集部の取組みを振り返る年末号の掲載記事です。すべてご覧いただけます。
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