SH3601 法務省、「IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会に関する取りまとめ」を公表 古田啓昌/佐藤誠高(2021/04/27)

そのほか

法務省、「IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会に関する
取りまとめ」を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 古 田 啓 昌
弁護士 佐 藤 誠 高

 

1 「IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会に関する取りまとめ」[1]の公表に至る経緯

 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「法制審部会」という。)は、2020年6月、民事裁判手続のIT化に関する審議を開始し、2021年2月に公表した「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」においては、送達や証人尋問のIT化についても言及されている[2]。しかしながら、わが国の裁判所が外国に所在する者に対して行う送達や外国に所在する証人または当事者(以下「証人等」という。)の尋問を行う場合には、国際法上、当該外国の国家管轄権と抵触する可能性が問題となる。そこで、この点について十分な検討を行うため、2020年7月、IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会(以下「本検討会」という。)が法務省に設置され、国際法上の課題を整理した上で、法制審部会に報告することとされた。

 

 本検討会は、裁判権の行使や実体法の適用に関する立法管轄権の行使が問題とならない訴訟類型(すなわち、通常の私人間の民事裁判)を念頭に置いて議論を行い、その成果物である「IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会に関する取りまとめ」(以下「本取りまとめ」という。)が2021年4月に公表された。本取りまとめは、国際送達等、ウェブ会議による国際証拠調べ、およびその他の項目について、外国における国家管轄権の行使に当たるかが問題となる行為に関する検討結果を報告している。以下、各行為等に関する主な検討結果について、俯瞰する。

 

2 国際送達等について

項 目 外国における国家管轄権の行使に当たるかが問題となる行為等 主な検討結果
  1. ① システム送達[3]による国際送達
  1. ア 裁判所書記官が事件管理システム上に送達すべき電子書類をアップロードする行為
少なくともサーバがわが国内に所在する限り、後記イおよびウの行為とは別個に、この行為が独立して外国の国家管轄権との抵触の問題を生ずることはないようにも思われる。 他方で、純粋にわが国内で完結する行為であると評価することはできないとの意見があった。 また、裁判所書記官によるアップロードのみを取り出して議論をする実益はないのではないかとの指摘もあった。
  1. イ 裁判所書記官が送達を受けるべき者の通知アドレスに対して通知を送付する行為
国家管轄権の行使に当たるとする意見と当たらないとする意見の双方が出された。
  1. ウ 送達を受けるべき者が事件管理システムにアクセスし、送達すべき電子書類を閲覧する行為
送達を受けるべき者が自らの意思で送達すべき電子書類を閲覧する行為について、これに対応する国家機関による国家主権の行使を観念することはできず、この点が独立して国際法上の問題を生ずることはないという整理があり得るものと思われる。 他方で、送達を受けるべき者に送達すべき電子書類を閲覧「させる」行為を抽象的には観念し得ると考えるとすれば、この点についても相手国の国家管轄権との関係を検討しなければならない。この場合には、基本的には、上記イと同様の議論が妥当する。
  1. エ 送達を受けるべき者に対して送達に伴う法的な効果を生じさせること
どのように整理するかにかかわらず、基本的に問題は生じないとする意見が大勢を占めた。
  1. ② 外国に所在する者に対する事件管理システムを利用した直送[4]
国家管轄権の行使に当たらないとする意見が多く出された。
  1. ③ 外国に所在する者に対するインターネットを利用した公示送達
外国の主権侵害に当たることはないという結論について、これに反対する意見はなかった。

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(ふるた・よしまさ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。1988年東京大学法学部卒業。1991年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。1995年米国ハーヴァード・ロースクール(LLM)修了。1996年米国ニューヨーク州弁護士登録。一般社団法人日本国際紛争解決センター業務執行理事、公益社団法人日本仲裁人協会理事、英国仲裁人協会フェロー(FCIArb)、アジア国際法学会日本協会常務理事、日米法学会理事、仲裁ADR法学会監事、法制審議会仲裁法制部会委員、法務省「IT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会」構成員。

(さとう・まさたか)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2009年東京大学法学部卒業。2013年東京大学法科大学院卒業。2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。企業活動より派生する訴訟、仲裁及び裁判外の交渉等の紛争解決案件を、多数取り扱う。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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