欧州議会がAIに関する規則の修正案を採択
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 後 藤 未 来
弁護士 山 下 舞
1 はじめに
EUの欧州議会は、2023年6月14日、人工知能(AI)をめぐる包括的な規制法案の修正案(以下「AI規則修正案」という。)[1]を賛成多数で採択した[2]。
元々、2021年4月に、EUの行政執行機関に当たる欧州委員会は、AIの開発や運用に関する規則案を公表していた[3]。今回、欧州議会により採択されたAI規則修正案では、「Chat GPT」など近年急速に発展する生成AIに関する規制や、バイオメトリック(生体情報)を用いた遠隔監視システムに関する規制も盛り込まれている。
AI規則修正案については、今後、欧州理事会において加盟各国との協議に付され、年内には合意を目指すとされる(その過程で、各条項の内容が変更される可能性もある)。
以下では、今回採択されたAI規則修正案の内容を概観する。
2 AI規則修正案の概要
⑴ 目的
AI規則修正案は、AIが産業および社会活動全般にわたり多様な経済的および社会的利益をもたらし得る点に鑑み、下記のような事項が目的として挙げられている。
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⑵ 規制対象となるAIシステム
AI規則修正案では、規制対象となる「AIシステム」について、概ね、次のような特徴を有するものとして捉えられている。
- 学習・推論・モデリング等の能力を有する
- 様々なレベルの自律性を持って動作することができる(人間のコントロールからある程度独立して、人間の介入なく動作する能力を有する)
- 人間が定めた明示的な目的または黙示的な目的にしたがって動作することができる
- 機械ベースのシステム
⑶ 規制主体
AI規則修正案の規制を受ける主体は、AIの「プロバイダー」と、AIの「ユーザー」に大別され、具体的には以下のとおりである。なお、「ユーザー」とは、「プライベートで個人的に利用する場合を除き、AIシステムを自らの権限のもとで利用する主体」とされ、いわゆるエンドユーザーとはことなる。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(やました まい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2021年慶應義塾大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
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