◇SH3637◇ベトナム:改正投資法施行令(2) 鷹野 亨(2021/05/26)

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ベトナム:改正投資法施行令(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鷹 野   亨

 

(承前)
 

4. 革新的スタートアッププロジェクトの定義と投資優遇措置

 改正投資法では、投資プロジェクトのうち企業所得税の免税など投資優遇措置が取られるものの1つとして「革新的スタートアッププロジェクト」が新たに追加された(同法15条2項e号)。

 政令31号では、この「革新的スタートアッププロジェクト」を以下の通り定義している(同政令19条8項)。

  1. (a)  (i) 半導体集積回路・コンピュータソフトウエア・携帯電話・クラウドコンピューティングに関する発明、ユーティリティソリューション、工業デザイン及びレイアウト設計から形成される製品の製造、 (ii) 家畜・植物・水産物・材木の新品種からなる製品の生産、(iii) 知的財産法により保護された権原、著作権、ベトナムが加盟国である国際条約により国際登録された権原、又は管轄当局により認められた権原を付与された技術進歩
  2. (b)  (i) パイロット製造プロジェクトによって製造された製品及び試作品の製造及び技術改良、(ii)  科学技術法に基づいて全国新興企業賞、イノベーション新興企業賞又は科学技術賞を受賞した製品の製造
  3. (c)  イノベーションセンター又は研究開発センターを運営する企業のプロジェクト
  4. (d)  知的財産法により保護された権原、著作権、ベトナムが加盟国である国際条約により国際登録された権原、又は管轄当局により認められた権原を付与された文化産業製品の製造

 また、外国投資家が革新的スタートアッププロジェクトを実施する中小企業に投資する場合、通常は必要となる投資登録証(IRC)の発行手続き及びM&A登録手続きを経なくてもよいという措置が新たに規定された(政令31号67条)。上記が定義されても未だ「革新的スタートアッププロジェクト」の範囲は不明確ではあるが、かかる手続きの省略ができるとすれば迅速な投資が可能となり、有望なベンチャー企業への出資の促進などベトナム投資の追い風になることが期待される。

 

5. 投資プロジェクト期間の延長が認められない場合

 改正投資法では、一部例外を除き、投資プロジェクト期間満了時に期間の延長を検討することができると定めているが(同法44条4項)、政令31号では、当該期間の延長ができない場合として、①安全、省エネルギー、環境保護に関する国家技術基準に適合せずに事業を行っている場合、②一定の機械について10年を超えて使用しているか、当該機械が安全、省エネルギー、環境保護に関する国家技術基準に適合していない場合などを挙げている(同政令27条)。

 

6. 投資プロジェクトの終了事由の判断基準

 改正投資法では、投資プロジェクトの終了事由の1つとして、民法上の偽装取引に基づいて投資活動を実施した場合を挙げている(同法48条2項e号)。本号に該当する一例として、いわゆるノミニーアレンジが挙げられる。ノミニーアレンジとは、外観上はベトナム内国企業が代表者・出資者となっている企業であっても、実態としては外国投資家が貸し付け等によって出資を肩代わりし、企業の運営についても契約等の取り決めにより外国投資家が事実上完全にコントロールしている状態などを指す。このアレンジは、外国投資家が出資比率等による外資規制を回避するために採用されることがある。

 しかしながら、ベトナム内国企業による出資があるとの外観を備えていたとしても、実質は外国投資家の全面的な支配下に置かれているということであると、外資規制の趣旨を潜脱するものとして、投資プロジェクトの終了事由となる法的リスクがある。

 政令31号は、この偽装取引であるか否かは裁判所の判決又は決定により判断するとし、管轄当局及び関連する法人又は個人は裁判所に対して偽装取引か否かの判断を求める権利を有すると規定している(同政令59条)。

 いずれの範囲の者までかかる権利を有するのかは不明確であり、ノミニーアレンジについては上記のような投資プロジェクト終了のリスクがあることを踏まえて慎重に検討する必要がある。

 

7. 終わりに

 上記に列挙した以外にも、投資プロジェクトのオンライン申請手続き(政令31号39、40条)や、土地使用権を現物出資して会社設立する場合の手続き(同政令52条)、事業協力契約(BCC)形態による投資プロジェクトの場合の手続き(同政令53条)等も新規に規定されており、その実務への影響を注視する必要がある。

 


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(たかの・とおる)

2009年東京大学法学部卒業、2011年慶應義塾大学法科大学院修了、2012年日本国弁護士登録(第一東京弁護士会)、2013年より東京都内企業法務系法律事務所で勤務の後、2015年~2017年経済産業省製造産業局模倣品対策室勤務を経て、現在は長島・大野・常松法律事務所ホーチミンオフィスに勤務し、主に、ベトナムへの事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

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