インドネシア:2020年重要法令の展望――オムニバス法は機能するか(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
3. オムニバス法
第2期ジョコウィ政権は、ビジネス環境ランキングの目標として、改めて、2年以内に50位その後40位以内に入ることを宣言し、投資環境の向上に向けた決意を新たにした。具体的な規制改革施策の目玉の一つとして掲げているのが「オムニバス法」である。これは、インドネシアへの投資を妨げてきた大きな原因である大量で複雑な投資関連法令を統廃合する試みであり、複数の法律の条項を一度に改正する一本の法律をオムニバス法と称している。2020年3月初めの時点では、雇用創出に関するオムニバス法案と税制に関するオムニバス法案が国会に提出されている。
このうち雇用創出に関するオムニバス法案は、投資促進による雇用機会の創出を目的とし、労働法、投資法、会社法、入国管理法などの主要な法律を含む79の法律にわたり総計1244条を対象とした改廃を行うもので、本文部分だけで685頁に及ぶ大部の法案となっている。
なかでも、労働法に関する改正には、これまで使用者側に対する過度の制約となっていた雇用規制を緩和する方向性が含まれ、労働組合からは強い不満が表明されている。たとえば、雇用関係の終了について、現行の労働法は、試用期間中の解雇、有期雇用契約の期間満了、自主退職、定年、死亡の場合を除いて、労働紛争解決機関の決定がなければすることができないとしているが、オムニバス法案ではこれらの例外事由に加えて、就業規則等の違反により3回連続で警告書を受けたにもかかわらずさらに違反をした場合、不可抗力による事業閉鎖の場合、使用者が破産宣告を受けた場合に労働紛争解決機関の決定を不要としている。また、現行法は退職時に支給される退職手当と勤続功労金について、勤続年数に応じたテーブル(退職手当については給与の9か月分、勤続功労金については10か月分が最高支給額)を設定していたが、オムニバス法案は勤続功労金の最高支給額を給与の8か月分に制限した。
上記2本のオムニバス法案は国会での審議中であり、修正の可能性がある。また今後、首都移転に関するオムニバス法案及び製薬業に関するオムニバス法案が順次国会に提出される予定である。オムニバス法は投資環境の改善さらには外国投資誘致の契機となるのか。2020年の法令改正動向から目が離せない。
以上