文化芸術分野におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法の
適用課題(中)
レイ法律事務所
弁護士 佐 藤 大 和
Ⅰ はじめに
(上)では、重層下請構造と「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法。以下、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」あるいは単に「新法」という。)の問題に触れた。今回は「業務委託性の問題」と「長期的な役務提供等の問題」について触れたい。
Ⅱ 「業務委託性」の問題
1 一言で「芸能活動」と言っても、「芸能活動」には、さまざまな活動がある。たとえば、制作会社から発注を受けて、演技や歌唱等を提供することもあれば、YouTubeなどのサービスを利用し、公衆に対して、直接、演技や歌唱等を提供する場合がある。また、マネジメント契約では、自らの肖像等を第三者に対して利用許諾することのみについても「芸能活動」の一つとされることもある。
2 フリーランス・事業者間取引適正化等法は、「業務委託」に適用がある(同法1条等)。そのため、「業務委託性」がない芸能活動については、新法の適用がないことになる。そのため、芸能活動について、逐一、新法の適用があるかどうかの判断が必要になる。
たとえば、制作会社から発注を受けて、演技や歌唱等を提供するのであれば、新法の適用があり、自発的に、YouTubeなどのサービスを利用し、公衆に対して、直接、演技や歌唱等を提供するのであれば、新法の適用はない。もっとも、発注者からの発注に基づいて、YouTubeなどのサービスを利用し、公衆に対して、直接、演技や歌唱等を提供するのであれば新法の適用がある。
ところで、この点について、複雑なのは、マネジメント事務所の存在である。マネジメント事務所が、実演家やクリエイターに対し、YouTubeなどのサービスを利用し、公衆に対して、直接、演技や歌唱等を提供することを指示しているのであれば、マネジメント事務所が実演家やクリエイターに業務(文化芸術活動)の委託をしたと考えて、新法の適用があるように思える。他方で、マネジメント契約について、実演家やクリエイターが、マネジメント事務所にマネジメント業務を委託していると考え、マネジメント事務所が、実演家やクリエイターに対し、YouTubeなどのサービスを利用し、公衆に対して、直接、演技や歌唱等を行う機会を提供することをマネジメント業務の一環と考えるのであれば、「自発的に」と評価され、新法の適用がないように思える。
3 ところで、実演家の肖像等の利用許諾契約は、業務委託ではないため、新法の適用はないと考えられる。すなわち、業務委託とは、①「事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること」②「事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」(同法2条3項)である。そのため、文化芸術分野において多い著作権、肖像権、パブリシティ権等の利用許諾については、業務委託性がないことになる。
もっとも、ドラマや映画等の出演契約、広告に関する出演契約についてどのように考えるかは、非常にややこしい問題がある。たとえば、広告出演契約書は、従来、単に、出演の報酬として「●●円」として定めていたところ、これを分析すると、①出演料(出演行為自体の対価)と、②肖像等の利用許諾料から構成される。YouTuberに対して広告宣伝を依頼する契約にいたっては、報酬には、①出演料、②肖像等の利用許諾料、③制作料、④YouTuberのアカウント使用料が含まれていると考えることができる(すなわち、従来のテレビCMの場合には、その制作・放送に当たり、①実演家に対する出演料、②肖像等の利用許諾料の他、③制作会社に対する情報成果物の制作料、④テレビ局に対するCM料が必要となるが、これと同様に考えられる。)。そうすると、一つの仕事において、新法が適用になる業務とそうでない業務が併存することになる[1]。
4 このように(上)の論点と合わせて、マネジメント事務所にとっては、新法の適用があるか否かについては、より複雑な問題を生じさせる。以下は、筆者が考えたマネジメント契約における支払期日についての条項案である(なお、1項は、再委託であること等の明示がされなかった場合を念頭に置いたものである。)[2]。
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レイ法律事務所弁護士(代表)。2011年弁護士登録(