東北新社、総務省職員との会食問題などを巡り
特別調査委員会「調査報告書」を公表
――会食54件を認定、外資規制抵触問題での「不当な働きかけ」は認められず――
東北新社(本社・東京都港区、JASDAQスタンダード上場)は5月24日、本年2月4日付一部報道により判明した同社役職員と総務省職員との会食問題などを巡り、同月12日付で設置した特別調査委員会の最終報告として調査報告書を受領したとし、「調査報告書(開示版)」を公表するとともに同社の対応方針を発表した。
特別調査委員会は、大阪府と東京都に事務所を置く弁護士法人の弁護士を外部専門家として委員長とし、ほか同社取締役副社長・同社内部監査室長の計3名で構成。総務省側の調査により総務審議官(郵政・通信担当)や前情報流通行政局長を始めとする計11人・延べ37件に対する懲戒処分等(いずれも国家公務員倫理規程違反の行為による)が行われた2月24日には、同社は「弊社の一部役職員の行動に起因して、国家公務員倫理法違反という重大な事態を招き、コロナ下における国会審議にも混乱を招来致しましたことは、弊社としても極めて重く受け止め」るとして謝罪するとともに、特別調査委員会の調査を継続していること、今後適時に報告を受けて結果を適切なかたちで公表することを表明した。特別調査委員会の中間報告を受けた2月26日には、会食問題を巡って執行役員2名の執行役員職を解き(取締役兼任の1名は取締役職を辞任)、メディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長1名の統括部長職を解いて人事部付とするなどの処分を同日開催の取締役会で決定し、代表取締役社長の同日付での辞任、新役員体制とともに発表している。
公表された調査報告書によると、特別調査委員会は(A)「調査開始時点において総務省職員が国家公務員倫理規程違反として処分を受ける可能性のある東北新社及びその関係会社の役職員による総務省職員との間の会食」を調査対象とし、(ア)会食費用を同社が負担したケースの伝票類による調査、(イ)関係者のヒアリング、(ウ)報道された同社役職員に係るメール調査、(エ)同社役員およびメディア事業部職員に対するアンケート調査、(オ)総務省調査で実施された同社役職員に対するヒアリングへの委員会の同席、(カ)中間報告後に実施したデジタルフォレンジック調査――を行っている。また、調査の過程において(B)BS4K放送の認定につき、当該認定の申請時および認定時に放送法上の外資規制に抵触していたとされ、当該認定を承継した東北新社メディアサービスが5月1日付で当該認定を取り消されたことから「認定及び当該認定の承継の手続に関し、東北新社から総務省職員に対する不当な働きかけが行われたかについても調査を行い、あわせて外資規制に抵触するに至った経緯についても調査」を行った。ただし、総務省検証委員会への事実関係の照会に対しては回答が得られなかったほか、関係者の他界、データ保存年限の経過、総務省職員に対する確認ができていないという制限があるという。
調査報告書では、委員会による認定事実を記載する第Ⅱ章において上記(A)の会食問題を「第2 調査対象会食について」として、(B)の外資規制抵触関係問題を「第3 会食における認定等に関する不当な働きかけについて」として取りまとめた。「第2」では「1 国家公務員倫理法令について」の項をまず設け、ここで国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程の制定趣旨を説くとともに、東北新社グループの役職員の「利害関係者」該当性を検討を行う。一方の「第3」では、同様に「1 放送法の定め」を概説したのち、審査・認定などの状況を「2 東北新社グループにおける衛星基幹放送の業務の認定について」「3 認定基幹放送事業者の地位の承継について」「4 スターチャンネル社における放送事項の変更について」「5 東北新社グループにおける認定の更新について」などと構成。「東北新社がどの時点で外資規制に抵触する可能性を認識したか」につき、上記「3」の局面における2017年当時の事実経過を明らかにした。
結論として、(A)に関して「調査対象会食として【表3】本件各会食一覧(編注・調査報告書11~13頁参照)記載の各会食を確認した」とし、計54件の会食を認定。「各会食の大半は」2月26日に執行役員解任の処分を受けた「前執行役員が設定したもの」とした。(B)に関しては「東北新社は、8月15日時点において自社が外資規制に抵触することを明確に認識したものである」とする事実とともに「少なくとも、①8月9日……メール送信時までに、前執行役員において、情流局総務課長に対し、外資規制抵触の可能性について何らかの報告を行ったこと」などを認定しつつ、対象期間中の会食機会を含め「不当な働きかけを行ったことをうかがわせる事情は認められない」としている。
調査報告書は第Ⅲ章において「原因の分析と提言」を展開。(A)会食問題について(α)その根本的な原因を「経営トップにおいて、少なくとも国家公務員倫理法規程違反に関与することを避けるべきとの基本的な法令遵守の明確な意識が欠如していた」と指摘するとともに、(β)ガバナンス体制の問題とし、①担当取締役における基本的な法令遵守の意識の欠如、②メディア事業部の閉鎖性、③監査等委員会による監査、内部監査室による内部監査が不十分であったこと、④内部通報制度が利用されなかったことを挙げた。(B)外資規制抵触問題についても「基本的には国家公務員倫理法令の原因分析で述べたことと同様のことが妥当する」とし、そのうえで「トップコミットメント」「コンプライアンス関係に造詣の深い社外取締役の選任、特別の諮問機関設置」「コンプライアンス体制の構築」を柱とする再発防止策を提言したものである。東北新社ではこれらを踏まえ、「公務員との会食は原則として禁止するルールを設け」るとするほか、「コンプライアンス再構築委員会」を5月24日付で発足させるなど4項目にわたる対応方針を表明した。
なお(B)の問題を巡っては、フジ・メディア・ホールディングス(本社・東京都港区、東証一部上場)が4月8日、「当社の過年度における外国人等の議決権比率の訂正について」と題する発表により、2012年9月末・2013年3月末・同年9月末・2014年3月末の外国人等の議決権比率につき「株主名簿の確定時において、本来議決権から控除すべき相互保有株式を株主名簿確定作業において把握できず、総議決権数から控除しておりませんでした。当時の資料を確認・精査した結果、当該株主名簿に関わる期間において、放送法が定める外国人等の議決権比率が20%を超えていた」とし、放送法に基づいて公告した数値を訂正。過年度の有価証券報告書・四半期報告書の訂正報告書を4月16日付で提出するに至っている。