冒頭規定の意義
―典型契約論―
契約法体系化の試み(4)
みずほ証券 法務部
浅 場 達 也
Ⅱ リスクの高低による体系化
(2) 何の・何に基づく・何のための体系か
「契約法体系化」といっても、自己目的的に「体系化」が存在するわけではないだろう。中田裕康教授は、『民法の争点』の中の「民法の体系」において、「何の・何に基づく・何のための体系か」との問いを立てている[1]。これまでの本稿の検討を踏まえると、これに対しては、次のように答えられるだろう。
第1に、「何の」体系か、すなわち、体系化の「対象」についてである。「契約各則」の体系化である以上、その対象が、契約各則の諸条文であることは、当然のことのように考えられる。しかし、それだけでは十分ではない。下の「何のための」体系かとの箇所で検討するように、「リスクの明確化・言語化」と、「リスクの回避・最小化」が体系化の目的と考えられるがゆえに、契約各則の諸条文に加えて、「合意による内容変更が難しい概念」を、体系化の1つの要素・項目と考える必要がある。「合意による内容変更が難しい概念」は、その内容の変更・修正が、「無効」という制裁をもたらす可能性を生じさせるため、任意規定よりもリスクが高いからである。
第2に、「何に基づく」体系かについてである。既に述べたように(「ポイント(21)」を参照)、本稿では、「リスクの高低」という尺度に基づいて体系化を行うことが、最も重要であり、実際上も有益であると考えている。契約各則のすべての規定は、リスクの高低に基づいて、①冒頭規定、②よくわからない規定、③任意規定、の3つに分類される。そして、①冒頭規定と②よくわからない規定は、それぞれ任意規定よりもリスクが高いがゆえに、任意規定よりも重要性が高い[2]。
第3に、「何のための」体系か、すなわち、体系化の「目的」についてである。契約書作成者は、契約書の作成にあたって、さまざまなリスク(=何らかの制裁が課される可能性)に遭遇する。契約書作成者は、それらリスクを明確に認識して言語化し、それらリスクを回避・最小化しなければならない。これこそが、契約書作成者の最も重要な責務であろう。そして、体系化の「目的」も、こうした契約書作成者の最も重要な責務を踏まえるべきであることは当然といえよう。すなわち、「契約書の実際の作成において遭遇する多様なリスクを明確化・言語化し、それらリスクを回避・最小化すること」が体系化の「目的」となる。
ポイント(22) 契約法体系化の目的 契約書の実際の作成において、契約書作成者が遭遇する多様なリスク(=何らかの制裁が課される可能性)を明確化・言語化し、それらリスクを回避・最小化することが、契約法体系化の目的である。 |
[2] これに加えて、上で述べた「合意による内容変更が難しい概念」もリスクが「高い」がゆえに、体系上、重要性が高いことについては、「ポイント(24)」を参照。