◇SH3111◇ミャンマー:ミャンマーにおける新たな倒産処理の枠組み(前編) 酒井嘉彦(2020/04/21)

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ミャンマー:ミャンマーにおける新たな倒産処理の枠組み(前編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

 

1. はじめに

 ミャンマーでは、海外からの投資を誘致し、国内での企業活動を促進するための法的枠組みの整備や規制緩和が進められ、海外の企業や投資家にとってより魅力的な投資環境・事業環境を創出する努力が行われている。その動きの一つとして、2020年2月14日付で成立したミャンマー倒産法(「新倒産法」)が、同年3月25日付で発効した。同法は、約100年ぶりに制定された倒産処理に関する法律であり、国際的な倒産処理プラクティスを参考にしつつ、法人の倒産処理のメニューを増やし、かつ、手続を明確化するものであるため、その概要を紹介する。なお、本稿の執筆にあたり、長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスのWin Shwe Yi Htunミャンマー弁護士の協力を得ている。

 

2. 従来の倒産処理の枠組み

 ミャンマーでは、これまで、1909年ヤンゴン破産法及び1920年ミャンマー破産法が存在していたが、これらは主に個人事業主やパートナーシップの倒産を対象としたものであった。法人の倒産については、ミャンマー会社法(「会社法」)において一般的な清算手続が規定されるのみであり、法人の倒産処理のメニューの追加及び手続規定の充実が課題とされていた。新倒産法は、倒産処理に関する法的枠組みを包括的に規律するものとして制定された。

 

3. 新倒産法の目的

 新倒産法の制度目的は広範にわたるものの、①他の法制度及び商慣習との整合性の確保、②倒産処理手続の管理・監督の適切な枠組みの提供及び倒産実務家の養成、③予測可能性のある一貫した倒産処理結果の提供、④迅速性、効率性及び公正の確保、⑤特に経済的困難に陥っている中小企業を中心とする再建可能な企業の救済・再生による雇用の確保及び投資の保護、⑥再建不可能な企業の効率的な清算による倒産事業の資産価値の最大化及び債権者による債権回収の最大化、⑦債権者間の公平性の確保、⑧倒産処理手続の濫用の防止、並びに⑨国際倒産処理手続の確立による国際市場へのアクセスの促進等が掲げられている。

 

4. 新倒産法の特色及び概要

 新倒産法の特色として、以下のものが挙げられる。

新倒産法の特色
(1) 法人の倒産処理のメニューの充実
(2) 再建型手続の新設
(3) 企業の救済・再生に重点が置かれていること
(4) 中小企業の保護に焦点をあてた特別の制度(中小企業再建手続)の新設
(5) 倒産実体法のルールの整備
(6) 国際倒産処理の枠組みの提示

 

(1) 法人の倒産処理のメニューの充実

 従来、法人の企業再生のための法的枠組みはほぼ存在せず、債務者が自ら申し立てる会社法上の任意的清算手続が、債務者の清算までに一定の猶予期間をもたらす方策として用いられてきていた。しかしながら、かかる手続は、債権者による申立てが認められていない等債権者の手続への関与は非常に限定的であり、また、あくまで清算過程において配当を引き上げるための猶予期間を作り出すための方策であり、企業再生の手法としては不完全なものであった。そこで、新倒産法は、債権者等の関係当事者との利害を調整しつつ、経済的困難に陥った債務者を救済し、再生させるための選択肢として、再建型手続(企業救済再建計画に基づいて事業活動を継続し、将来の事業収益の中から債権者の満足を図るプロセス)を新たに導入した。

 新倒産法の下では、経済的に困窮した事業者は、清算型手続に沿って事業を清算するか、再建型手続に従って事業の継続を目指すかのいずれかを選択することができる。また、有担保債権者の申立て又は裁判所の命令によって再建型手続を開始することも認められている。

 また、後編において述べる通り、中小企業の保護に焦点をあてた特別の制度も用意されている。

(2) 再建型手続の新設

 新設された再建型手続は、計画作成段階と計画実施段階の2つの段階に分かれている。

 計画作成段階では、倒産実務家が、再建管理人(Rehabilitation Manager)として選任される。再建管理人は、経済的困難に陥った債務者自身による指名の他、有担保債権者又は裁判所が指名権を有する。再建管理人は、債務者の資産の管理処分権限を有し、債務者の経営陣の選任・解任権限を有するとともに、債務者のために企業救済再建計画を作成するという重要な役割を担っており、その職務の過程で発生した債務について一定の個人責任を負うとされている。

 企業救済再建計画が、債権者集会において出席債権額の過半数及び出席債権者数の過半数の承認を得た場合には、企業救済再建計画の拘束力が全ての関係者に及び、再建型手続は、計画作成段階から計画実施段階に移行する。

(後編)につづく

 

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