SH3657 公取委、「令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」を公表 臼杵善治/杉 秋甫(2021/06/15)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

公取委、「令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 臼 杵 善 治
弁護士 杉   秋 甫

 

 令和3年5月26日、公正取引委員会(以下「公取委」という)より、「令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」が公表された。令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、経済活動に様々な制約が課せられた一年であった。以下では、公表された公取委の独占禁止法違反事件の処理状況について、新型コロナウイルスの影響も踏まえて、簡単にコメントすることとしたい。

 

1 排除措置命令等の傾向

 令和2年度は、1年を通して新型コロナウイルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が発令され、感染拡大防止のために人同士の往来・接触を避けることが推奨されたことから、独占禁止法違反の処理件数に大きく影響を与えることが予想された。

 もっとも、実際には、価格カルテル6件、入札談合1件、受注調整1件、私的独占1件、不公正な取引方法6件と、合計15件もの法的措置(注1参照)が行われ、予想に反し、令和元年度の合計13件よりも増加する結果となった。

  1. (注1) 法的措置とは、排除措置命令、課徴金納付命令および確約計画の認定のことである。一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には、法的措置件数を1件としている。
  2. (注2) 私的独占と不公正な取引方法のいずれも関係法条となっている事件は、私的独占に分類している。

(出典:公取委「令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」(令和3年5月26日)2頁)

 

 令和2年度において法的措置の件数が減少に転じなかった理由としては、実質は一つの事件である愛知県立の6つの高等学校向けの制服についての価格カルテル事件を、高校ごとに市場が分かれるため、価格カルテル6件とカウントしていることが一因であると考えられる。また、法的措置が行われた合計15件のうち、人との接触が最も懸念される立入検査が新型コロナウイルスの感染拡大以前に行われる等、令和2年度以前にすでに調査が開始されていた事件が多数を占めていたことも理由と考えられる。

 また、令和2年度における法的措置のうち特筆すべき点は、初めて私的独占に対する課徴金納付命令が行われたことである(公取委「マイナミ空港サービス株式会社に対する課徴金納付命令について」(令和3年2月19日))。平成17年、平成21年の独占禁止法改正により支配型・排除型私的独占についても課徴金納付命令の対象となったが、その後私的独占の摘発事例が極端に減り、これまでは、課徴金納付命令の要件を満たす私的独占の事案がなかった。

この記事はプレミアム向け有料記事です
ログインしてご覧ください


(うすき・よしはる)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2003年慶應義塾大学法学部卒業。2006年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第一東京)。2015年University of London, LL.M. in Competition Law修了。公正取引委員会による審査手続対応、海外当局による調査手続対応、国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポート、競争法コンプライアンスマニュアル作成・競争法コンプライアンストレーニング等の多数の案件を取り扱っている。

 

(すぎ・あきほ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2016年早稲田大学人間科学部卒業。2019年東京大学法科大学院卒業。2020年弁護士登録(第一東京)。国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポートの案件を取り扱っている。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

タイトルとURLをコピーしました