◇SH0243◇シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(8) 丹羽繁夫(2015/03/05)

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シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(8)

-神戸地判平成26年10月16日-

 

一般財団法人 日本品質保証機構

参与 丹 羽 繁 夫

(4) 被告らの情報開示義務違反の有無

 -株式公開買付けにおいて対象会社がどのような意見を有しているかは、株主が株式公開付けに応じるか否かの判断を行う上で重要な情報であることにかんがみ、株式公開付けについての対象会社の意見表明報告書の提出が平成18年改正金融商品取引法27条の10により義務化されるに至っていること、本件賛同意見表明の約1年前にはMBO指針が公表されており、同指針においては、株主の判断に資するための充実した説明、特に取締役が当該MBOに関して有する利害関係の内容についてより充実した説明を行うことが求められていたことなどからみて、取締役は、善管注意義務(MBO完遂尽力義務)の一環として、「株式公開買付けに関して一般にMBOの対象会社として提出する意見表明を公表するに当たって、株主が株式公開買付けに応じるか否かの意思決定を行う上で適切な情報を開示すべき」義務を負っているので、賛同意見表明公告において、株主の判断のために、①重要な事項について虚偽の事実を公表したり、あるいは②公表すべき重要な事項ないしは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の公表を怠った場合には上記善管注意義務違反の問題が生じる(65、66頁);

 -同社は、9月19日付賛同意見表明において、「なお、当社取締役会は、平成20年6月より、本取引に法的論点に関する説明を弁護士法人大江橋法律事務所から受けております」と付記した。このような付記記載は、利益相反を回避する措置に関するものであることから、上記善管注意義務(情報開示義務)違反を構成するか否かが問題となる(67頁);

 -このような記載全体を一般の株主が閲覧したならば、同社取締役会が、本件MBOに関する法的論点について、大江橋法律事務所の説明を受け、そのアドバイスや法的見解に依拠ないしは少なくともこれを参考にして、9月19日付賛同意見表明に至ったものと受け取るのが自然である。実際には、被告社外取締役らは、大江橋法律事務所の意見を受け入れることができず、上記法律意見書正本の受取を拒否しているので、これらの事情に照らすと、同社の取締役会は、大江橋法律事務所の説明を受け、そのアドバイスや法的見解に依拠ないし少なくともこれを参考にして、9月19日付賛同意見表明に至ったものでないことは明らかである。被告らが9月19日付賛同意見表明の中に上記記載を行ったことは、上記書面を閲覧する一般株主に対して、本件MBOの利益相反性等に関して誤解を生じさせるおそれのある対応であったものといわざるを得ない。そうだとすると、被告ら取締役の上記対応は、上記②の「公表すべき重要な事項ないしは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の公表を怠った場合」に該当し、取締役の会社法上の義務としての善管注意義務(情報開示義務)に違反する(68、69頁)。

(5) 被告H.K.らの手続的公正性配慮義務違反と損害との相当因果関係の存否

 -取締役会が12月2日付不賛同表明を開示したことを受け、Tomorrowは、MBO基本契約に基づき、創業家一族に本公開買付けへの応募を撤回することを請求し、創業家一族が本公開付けへの応募を撤回したため、応募株式数が買付予定数の下限を満たさず、本公開付けは不成立となり、本件MBOは頓挫したが、12月2日付不賛同表明の理由とされた根拠事実は、被告H.K.らの上記手続的公正性配慮義務違反を構成する「被告H.K.のOに対するメール送信指示行為」の内容とほぼ一致していることに照らすと、被告H.K.らが上記のような手続的公正性配慮義務に違反しなければ、12月2日付不賛同表明には至らず、本公開買付けは成立していた蓋然性は高かったといえる。そうだとすると本件MBO費用のうち、「本件MBOの頓挫に至る過程において、それに関連して支出を余儀なくされた費用」については、その限度で、被告H.K.らの手続的公正性配慮義務違反との間に相当因果関係の存在を認めることができる(71、72頁)。

(6) 被告らの上記情報開示義務違反と損害との間の相当因果関係の存否

 -12月2日付不賛同表明の理由は、専ら被告H.K.らの手続的公正性配慮義務違反を基礎づけている同被告のOに対するメール送信指示行為にあることは明らかであって、仮に被告らが情報開示義務を尽くしていたとしても、取締役会が12月2日付不賛同表明をプレスリリースするに至った可能性は十分にあった。そうだとすると、本件MBO関連費用の中には同社が本件MBOの頓挫の過程で支出を余儀なくされた費用が含まれているが、その支出は、あくまで被告H.K.らの手続的公正性配慮義務違反に起因するものであって、被告らの情報開示義務違反との間には相当因果関係は認められない(76頁)。

 
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