SH3678 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第17回 第3章・当事者及び関係者(3)――Subcontractor 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/07/08)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第17回 第3章・当事者及び関係者(3)――Subcontractor

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第17回 第3章・当事者及び関係者(3)――Subcontractor

1 Subcontractorに関する規定の概要

 大規模な建設プロジェクトにおいては、Contractorが全ての作業を自ら行うことは現実的でなく、各作業を専門または得意とする業者を下請として起用することが必須と言っても過言ではない。そこで、Red Bookでは、「Subcontracting」という表題のもと、下請に関する項目が設けられている。

 ここで定められていることは、一つには、下請が許される範囲である。一括下請、すなわちContractorが全ての業務を下請に委ねることは禁止されており、また、契約上Contractorが自ら行う業務が定められていれば、これも下請に委ねることが禁止される(5.1項)。

 次に、下請業者(Subcontractor)の選任について、Contractorは、原則として、Engineerの事前の承認を得る必要がある(5.1項)。一方、Engineerからの指示として、特定のSubcontractorの選任がContractorに対して求められることがある(5.2.1項、Nominated Subcontractorと呼ぶ)が、Contractorはこれを選任する義務を負わない(5.2.2項)。

 というのも、Subcontractorの作業については、Contractorが責任を負うからである(5.1項)。Employerが、地元の特定のSubcontractorの起用を要望することがあるが、その希望を受けて選任したSubcontractorであったとしても、その作業についてContractorが責任を負うことに変わりはない。また、上記のように、Engineerが選任を指示したSubcontractorであったとしても、Contractorは同様に責任を負う。そのため、Contractorは、自らの意に反するSubcontractorの選任を拒めることとされているのである。

 Yellow BookおよびSliver Bookでは、独立した項目ではないものの、下請に関する規定が設けられている。Yellow Bookの規定内容は、Red Book同様、上記各点について定めている(Yellow Book 4.4項、4.5.1項)。

 Silver BookではEngineerが存在しないため、Subcontractorの選任についてEngineerの事前承認が必要ということはない。その他は、上記各点と同様である(Silver Book 4.4項、4.5.1項)。

 

2 Contractorの義務と背中合わせ(back-to-back)の義務

 前述のとおり、FIDICのもとでは、ContractorがSubcontractorの作業について責任を負うため、Contractorとしては、Subcontractorにも自らと同程度のリスクを負担してほしいと考えるのが自然である。そこで、下請契約において、Subcontractorはback-to-backの義務を負うと定められることがある。すなわち、Subcontractorが、自らの請け負った作業に関して、EmployerとContractorとの間の契約(Main Contract)におけるContractorの義務および責任をすべて引き受け、Subcontractorの行為が原因でContractorがMain Contract違反の責任を負うことになった場合は、SubcontractorがContractorに対して補償を行う旨の約束である。

 Subcontractorとしては、自らが交渉に関与していないMain Contractの内容に、自らの義務の範囲や程度が左右されることとなるため、back-to-backの義務を受け入れることに抵抗がある場合も少なくないと思われる。よって、back-to-backの義務を盛り込んだ下請契約を締結しようとするのであれば、将来の紛争リスクを低減するためにも、SubcontractorがMain Contractの内容を把握できるようにした上で、Subcontractorが引き受けるのに適していない義務や責任については明示的に除外する(たとえば、Siteに行くためのアクセス経路の確保に関する義務等は、Contractorの義務として残す)ことが、基本的には望ましい。

 なお、FIDICが公開している下請契約の書式は、基本的に、FIDICのRainbow Suiteに属する書式をMain Contractとして、Subcontractorのback-to-backの義務を定めている(2019年版のYellow Book Subcontractなど)。ただし、実務上、この書式はあまり普及していないようである。これは、下請契約においては、作業の内容や期間がMain Contractに比べて限定されるにもかかわらず、FIDICの書式はMain Contractと同程度の精緻な記録や書面に基づく契約管理を前提としている(すなわち、契約管理に多大な労力を要する)ために、敬遠されがちなことが理由であると推察される。

 

3 Pay when paidの支払方式

 Contractorの「Subcontractorにリスクを負担してもらいたい」という発想は、代金支払いの場面にも妥当する。そこで、下請契約において、Subcontractorに対する代金の支払いは、ContractorがEmployerから支払いを受けるまで行わなくてよい旨の条項が設けられることがある。これが、「pay when paid」と呼ばれる方式である。Subcontractorにとっては、Employerの支払能力不足のリスクおよび支払拒絶リスクを引き受けることとなるため、大きな負担となり得る。

 かかる負担の大きさから、国によっては、pay when paidの方式は違法無効となることに注意が必要である。たとえば、英国では、Housing Grants, Construction and Regeneration Act 1996という法律により、原則としてpay when paidの支払方式は認められないこととされている。日本でも、下請代金支払遅延等防止法により、元請業者は下請業者が役務の提供をした日から起算して60日以内の、できるだけ短い期間内で支払期日を定める義務があるとされており(同法2条の2)、同法は契約による適用排除を許さない強行法規であるため、pay when paidの方式を契約で定めても無効になると解される。

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