SH3700 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第19回 第4章・Variation及びAdjustment(2)――工事等の内容の変更その2 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/07/29)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第19回 第4章・Variation及びAdjustment(2)――工事等の内容の変更その2

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第19回 第4章・Variation及びAdjustment(2)――工事等の内容の変更その2

3 Engineerの主導のもと、Contractorの提案を通じて行われるVariation

⑴ 要件及び効果

 この点は、Engineerからの強制的なVariationと同様で、前回の項目2 ⑴のとおりである。

 

⑵ 手続

▶ Engineerからの通知

 まず、Engineerが、希望する変更について記載した通知を、Contractorに送付する(13.3.2項)。これに対するContractorの対応は、次の2通りである。

 

▶ Contractorが提案を行う場合

 Contractorは、Engineerが希望する変更を実現するための、具体的な提案をEngineerに対して行う。その提案に際しては、Engineerからの強制的なVariationに応じる場合同様に、以下の各点を記載する。

  1.  ① 変更後の作業の詳細
  2.  ② 変更後の作業を遂行するための工程表(コンピュータプログラム、工事等の全体に関するプログラムの変更が必要であれば、その提案)
  3.  ③ 代金額の変更に関する提案

 かかる提案を受けたEngineerは、速やかに、通知をもってContractorに返答をする。返答の内容は、基本的に、Contractorの提案に応じるか、否かである。応じる場合には、Engineerからその内容で、Variationを指示することとなり、後の流れは、既に上記3点の記載事項がEngineerに連絡済であること以外は、Engineerからの強制的なVariationと同様で、具体的には前回の項目2 ⑵ における「Contractorが異議を唱えない場合」のとおりである。

 一方、EngineerがContractorからの提案に応じない場合にVariationがどうなるかについて、FIDICに特段の定めはない。現実には、当事者で協議の上対応するか、あるいは、協議がまとまらなければ、この手続でのVariationは行われないことになろう。ただし、Contractorにはこの提案の作成に要したコストがあれば、請求する権利がある。

 なお、Contractorは、かかるEngineerの返答を待っている間、工事を遅らせることなく、予定どおり進めなければならない。

 (以上の手続については、いずれも、13.3.2項に定められている。)

 

▶ Contractorが提案を行わない場合

 Contractorが提案を行わなければ、この流れでのVariationは先へ進まないことになる。したがって、Variationの帰趨は、Engineerが強制的なVariationを行うか否かに委ねられることとなる。

 Contractorは、提案を行わない理由をEngineerに説明する必要があり、その際に、前回の項目2 ⑴のVariationが認められない理由に言及することになる(13.3.2項、13.1項)。

 翻って言えば、Contractorは、かかる理由がない限り、Engineerの求めに応じて提案を行うことが期待されていると解される。

 なお、上記の各手続も、Yellow BookおよびSilver Bookでも特に異ならない。Silver Bookにおいて、Engineerが、EmployerまたはEmployer’s Representativeにとって代わられる程度である。

 

4 Engineerの黙示の指示によるVariation

 Engineerからの指示が、Variationの指示であることを明示していないものの、Contractorが当該指示はVariationに当たると考えた場合には、Contractorは直ちに、かつ指示された作業に着手する前に、Engineer(Silver BookではEmployer)に対して、当該指示がVariationに当たる理由を述べて通知をすることとされている(3.5条)。この通知を受領してから、原則として7日以内にEngineerが返答(当該指示を撤回するか、修正するか、修正せずに維持するか)しなかったときは、当該指示は撤回されたものとみなされる。

 一方、Engineerが期限内に返答した場合には、Contractorはその返答内容に従うこととされている。

 この仕組みは、実務的には重要な意味を持ち得る。というのも、Employer側の意向は様々な形でContractorに伝えられるところ、その意向が工事等の変更に関するものであっても、毎回Variationの手続が踏まれるとは限らないからである。たとえば、ContractorとEmployer側の定例会議において、Employer側が口頭で作業順序の変更等を指示することは珍しくない。Contractorがそのまま指示に従って作業を行った場合、たとえ当該指示が原因で工期が遅れたり追加費用が発生したりしても、Contractorは原則としてEmployer側に何らの請求を行えないこととなる。黙示の指示によるVariationの手続は、かかる事態を回避する手段をContractorに与えるものと言えよう。

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