SH3943 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第48回 第11章・紛争の予防及び解決(1)――総論(1) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/03/17)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第48回 第11章・紛争の予防及び解決(1)――総論(1)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第48回 第11章・紛争の予防及び解決(1)――総論(1)

1 はじめに

 今回から、本連載の場面が変わる。

 法的な思考の枠組みは、それ程多くはない重要な視点から成り立っているところ、第2回において述べたとおり、その一つが、「実体」規定と「手続」規定とを区分するという視点である。前回までは、「実体」規定を中心に述べてきたが、今回からは「手続」規定を中心に述べることになる。

 ただし、両者は関連する面が多々あり、完全に区分できるものでもない。前回までに言及してきた「手続」規定も多々ある。例えば、Variation(工事等の内容変更)や、EOT(工期の延長)について、「手続」規定に言及してきた。

 もっとも、両者の機能は異なっており、「実体」規定は、当事者の権利義務関係を定めるもの、一方「手続」規定は、当事者の権利義務関係を実現するための手続について定めるもの、と説明できる。したがって、両者を区別する視点は有益であると考えている。

 今回から、紛争の予防と解決のための手続について解説するが、最初に総論として、法的紛争に対処する上での、基本と考えられる視点について、解説する。その後、claim、Engineer’s determination、DAAB(Dispute Avoidance/Adjudication Board)、Arbitrationの順に、具体的な手続について解説する。

 

2 形式を見る

 法的紛争に対峙する上では、形式という、その共通言語を踏まえる必要がある。これを踏まえなければ、説得という、法的紛争の予防および解決において必須の作業を、効果的に行うことは不可能である。

 筆者らが特に重要と考える形式は、次の3点である。

 

⑴ 何を、誰に対して請求するのか、その根拠は何か

 第2回において、一つの重要な視点として、権利義務関係の整理に言及した。

 これが、権利義務関係の実現という「手続」規定の場面になると、いかなる内容の請求を、誰に対して行うかを明確にし、かつ、その請求の根拠も明確にするべき、という形になる。

 当たり前のことのように見えるが、実際のところ、これらの点が曖昧のまま、法的紛争への対峙が行われていることは意外に多い。しかし、これらの点が曖昧のままでは、請求が認められることは困難であり、換言すれば、解決というゴールに近づきがたい状況である。

 したがって、上記3点の明確化を常に意識することは、重要であり、有益である。日本の裁判官も、「訴訟物は何か」という表現で、上記3点の明確化を常に意識している。

 なお、請求の根拠について補足すると、契約に基づく請求と、契約に基づかない不法行為、不当利得等の請求を区別する視点は有益である。法的紛争に対峙する上で、契約が重要な意味を持つためである。

 

⑵ 要件は何か

 第2回において、一つの重要な視点として、「要件」と「効果」について述べた。

 この視点は、「手続」規定の場面においても重要である。請求が認められることは、いわば「効果」の実現である。そこで、請求が認められるための「要件」が何か、それが充足されているか否かが、「手続」規定の場面において吟味される。

 その「要件」が充足されない限り、請求が認められることはない。「要件」が何かを曖昧にしたままでは解決は期待しがたく、明確にすることが必要である。

 また、法的紛争が生じた際には、複数ある「要件」のうち、争いがどの「要件」について生じているかを明確に意識することが、効果的な対処に資することとなる。

 留意事項として、「要件」には、請求のためのものと、防御のためのものがある。例えば、消滅時効や、相殺といった法的主張があるが、これらは多くの場合、受けた請求を妨げるための、防御として主張される(日本の民事訴訟では、このような防御は、「抗弁」と呼ばれる)。この防御が成り立つか否かも、その「要件」が充足されるか否かによって、判断される。

 

⑶ 各要件について事実と証拠はあるか

 以上のとおり、「要件」が充足されるか否かが、「手続」規定の場面において吟味されるところ、この充足とは、基本的には、「要件」に該当する事実が認定できるということであり、事実を認定するためには証拠が必要となる。これが法的紛争に対処する上で、事実および証拠が重要となる主たる理由である。

 この点、一つの留意事項として、事実の認定に、常に証拠が必要とは限らない。当事者間に争いがない事実は、証明の必要がない。したがって、相手方が争わずに、事実を認めてくれるということは、最強の証拠を得るに等しいことである。

 そのため相手方の証人に対する反対尋問の場面では、当該証人の信用性を弾劾することを狙うというアプローチの他に、争いがない事実を増やすべく、当方に有利な事実をできる限り多く認めてもらうというアプローチがある。後者のアプローチが効果的なことは、思いのほか多い。

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