わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(4)
成城大学法学部
教授 山 田 剛 志
バークレイズ証券株式会社
金融法人部長・マネジング・ディレクター 井 上 健
3. アクティビスト・ファンドによる最近の動向(グローバル・ベースでの活動の概観)
ここで最近のアクティビスト・ファンドのトレンドについて概観したい。アクティビスト・インサイド(Activist Insight)社による調査[1]によると、2016年にアクティビスト・ファンドから何らかの要求を受けた対象企業数(未公表案件は除く)は全世界で806社であり、前年の699社に比べて15%の増加となっている。2013年の対象企業数が533社であったことから、ここ数年で大幅な増加を示しており、アクティビスト・ファンドによる活発な活動が伺える。2017年上半期だけで見ても、既に485社が対象となっており、引き続き足元でも活発である。
アクティビスト・インサイド社による2017年上半期(1月から6月)の調査に基づき、アクティビスト・ファンドによる活動の地域別の内訳をみると、アクティビスト・キャンペーンの対象となった企業数が最も多いのはアメリカであり、全世界の約3分の2にあたる320社が対象となっている。また、アメリカに続いて多い地域はヨーロッパであり、62社がアクティビスト・ファンドの対象となった(全世界の約13%)。ヨーロッパにおけるアクティビスト・ファンドの活動はここ1、2年で顕著に活発化しており、ヨーロッパに本拠を置くアクティビスト・ファンドのみならず、アメリカ籍の大手アクティビスト・ファンドも有名ヨーロッパ企業を対象とするキャンペーンを増やしている[2]。また、アジア・太平洋州地域(含むオーストラリア)でも増加傾向にあり、2017年上半期の対象企業数は66社に上る(全世界の約14%)。
アクティビスト・ファンドが、本家アメリカのみならず、ヨーロッパやアジアといった国々に活動の場を広げていることが伺われる。アメリカにおいては、最近の株価上昇により割安に放置されている会社が減っており、また、アメリカ大手企業によるアクティビストへの対応策がこなれてきたという面もあり、比較的取組みやすい大型投資案件が少なくなっていると言われている。一方、ヨーロッパやアジアでは、アメリカに比べてこれまでアクティビスト・ファンドの活動が少なかったものの、株価向上やガバナンス強化を求める株主からの声が高まっており、活動が広がる素地があると言える。そのため、一部の大手アメリカのアクティビスト・ファンドは、アメリカでの成功体験を基に、活躍の場をアメリカ以外の全世界に広げていると考えられる。
なお、参考までに、アクティビスト・キャンペーンの対象となった企業の業種別内訳をみると、2017年上半期の調査で最も多いのは金融業。次にサービス、テクノロジー、基礎素材、ヘルスケアとなっている。年により変動があるが、過去数年のトレンドをみても、金融、ヘルスケア、製造業などが多いものの、ほぼ全ての業種がアクティビスト・キャンペーンの対象となっており、どの産業であってもアクティビストからの攻撃対象になりえると考えられる[3]。
(出典)Half Year Review (Activist Insight, July 2017)に基づき筆者ら作成
[1] “Half Year Review”, Activist Insight (July 2017) https://www.activistinsight.com/resources/reports/、2016 Shareholder Activism Review” FactSet Shark Repellent (February 1, 2017)
https://cdn2.hubspot.net/hubfs/1803721/Resources%20Section/Research%20Desk/Market%20Insight/
FactSet%27s%202016%20Year-End%20Activism%20Review_2.1.17.pdf#search=%27FactSet++
2016+Shareholder+Activism+Review+2.1%27
[2] 過去1、2年におけるアメリカ籍の大手アクティビスト・ファンドによるヨーロッパ有名企業への主な投資事例 (カッコ内は対象企業の国籍 / キャンペーンを展開している米国アクティビスト名):Akzo Nobel (オランダ / Elliott Management)、Ansaldo STS (イタリア / Elliott Management)、BHP Billiton (英豪 / Elliott Management)、Danone(フランス / Corvex Management)、Nestle (スイス / Third Point)、Rolls-Royce (英 / ValueAct Capital)など(公表資料等による)
[3] “Review of Shareholders Activism- 1H 2017” Harvard Law School Forum on Corporate Governance and Financial Regulation (July25, 2017)
https://corpgov.law.harvard.edu/2017/07/25/review-of-shareholder-activism-1h-2017/
“2016 Shareholder Activism Review” FactSet Shark Repellent (February 1, 2017)
https://cdn2.hubspot.net/hubfs/1803721/Resources%20Section/Research%20Desk/Market%20Insight/
FactSet%27s%202016%20Year-End%20Activism%20Review_2.1.17.pdf#search=%27FactSet++
2016+Shareholder+Activism+Review+2.1%27