インドネシア:オムニバス法の制定(11)
〜独占禁止法の改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 村 洸 介
2020年11月2日に制定された雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)は、本年2月2日付けで各種の施行規則が制定される等整備が進んでいる。本稿では、インドネシアでの事業活動に関連する独占禁止法の改正について取り上げる。
インドネシアにおいても、日本の独占禁止法と規制類型等は必ずしも同一でないものの、独占的行為や不公正な事業競争を引き起こすカルテルや不当廉売等、事業者による一定の排他的な協定や行為が禁止され、企業結合規制も定められている。独占禁止法の執行機関として事業競争監視委員会(KPPU)が設置されており、KPPUは事業者の違反行為について調査し、その有無の決定を行う。KPPUには、事業者に対して、違反行為の中止命令や無効化、損失填補措置、制裁金等の行政上の措置を科す権限が認められている。
オムニバス法及びその施行規則である政令2021年第44号による、独占禁止法の主な改正は以下の事項である。
⑴ KPPUの決定に対する不服申立て
KPPUによる違反行為の決定に対して、事業者は不服申立てを行うことができる。従前はKPPUから決定通知受領後14日以内に地方裁判所に行う必要があったが、改正後は、不服申立ては同14日以内に商事裁判所に対して行われることになった。商事裁判所は通常裁判所の特別法廷で、知的財産関係事件や倒産事件の第一審を管轄する裁判所であり、日本の裁判所制度における商事部に相当する。
また、これまで地方裁判所の審理期間は30日間であったのに対して、商事裁判所での審理期間は3か月以上12か月以内に延長された。
独占禁止法違反事件は知的財産や倒産とならび、専門的知見を要する訴訟類型として取り扱われることになったと言える。
⑵ 制裁
KPPUが違反事業者に科す行政上の制裁金及び刑事罰について、以下の改正が行われた。刑事罰はKPPUの調査への非協力の場合に限定されており、独占禁止法違反への制裁も主にKPPUによる行政上の措置に委ねられることになったと言える。
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改正前 |
改正後 |
制裁金 |
10億ルピア以上250億ルピア以下 |
10億ルピア以上 但し、違反者が関連市場において違反期間に得た純利益の50%又は売上げの10%のうち高い方の金額は超えない |
刑事罰
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行為類型により、罰金(10億~1,000億ルピア)又は禁錮(最長6か月) |
事業者及び関係者がKPPUの調査に協力しない場合、50億ルピア以下の罰金又は1年以下の禁錮 |
追加刑事罰として、事業許可の取消し、2~5年以下の役員就任禁止、第三者に損失を生じさせる行為の停止命令 |
追加刑事罰は削除 |
(10億ルピア:約759万円)
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(なかむら・こうすけ)
2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。2019年~長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク勤務。
2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、日本企業によるインドネシアへの事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。
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