◇SH3912◇ベトナム:電子商取引に関する規制の改正(1) 澤山啓伍/Hoai Truong(2022/02/21)

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ベトナム:電子商取引に関する規制の改正(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

ベトナム弁護士 Hoai    Truong

 

 近年、ベトナムの電子商取引市場は急激に拡大している。これに伴うトラブルの予防、国家管理を目的として、ベトナム政府は、2021年9月25日付政令第85/2021/NĐ-CP号(以下「政令第85号」という。)を公布した。これは、電子商取引事業に関する規制を定める政令第52/2013/NĐ-CP号の一部を改正するものであり、2022年1月1日に施行された。

 

 ベトナムの電子商取引市場については、日系企業のベトナム子会社による事業開始・拡大や、日本からのベトナム向け販売に関するご相談も多くお受けしている。そこで、本稿では、政令第85号により改正された点も含め、ベトナムで、又はベトナム向けに電子商取引事業を行う外国事業者として注目すべきベトナムの規制について紹介する。

 

1. ベトナム現地企業が電子商取引事業を行う場合の規制

 日本企業を含む外国企業が、ベトナム国内の子会社を通じて電子商取引事業を行う場合、政令第85号による改正後の政令第52号(以下「改正後政令第52号」という。)による電子商取引に対する規制を遵守する必要がある。その概要を簡単にまとめると、以下のとおりである。

 

 

 上の表のうち、電子商取引の分類についての注釈は以下のとおりである。

  1. ※1  「電子商取引」とは、インターネット、移動体通信ネットワーク又はその他のオープンネットワークに接続する電子手段による商業活動のプロセスの全部又は一部を行うことであると定義されている(改正後政令第52号第3条第1項)。
  2. ※2  「自社電子商取引ウェブサイト」は、ある商人、組織又は個人が、商品販売電子商取引サイト(「Website thương mại điện tử bán hàng」)を設け、それを介して自らの商品又はサービスを販売し、提供する事業形態である。
  3. ※3  「電子商取引サービス」は、ある商人、組織又は個人が、電子商取引サービス提供サイト(「Website cung cấp dịch vụ thương mại điện tử」)を設け、その他の商人、組織又は個人に対し、商業促進、商品販売又はサービス提供を行う環境を提供するサービスである(改正後政令第52号第3条第16項)。なお、政令第85号による改正で、「電子商取引サービス」提供者は、当該サイトの経営、管理、運営を直接行う者を意味し、サイトの設定又は作成のみを行う者(システム開発者)は、これに該当しないことが明示された(同項)。
  4. ※4  電子商取引トレーディングフロアは、ベトナムで最も多く利用されている電子商取引サイトの形態であり、以下のような類型のものがこれに含まれるとされている。
    1. ➢    サイト使用者がそこで商品・サービスの掲示又は紹介を行うことができるもの
    2. ➢    サイト使用者がアカウントを作成し、顧客との契約締結を行うことができるもの
    3. ➢    サイト使用者が商品・サービスの売買ができるもの、等
  5.      政令第85号では、ソーシャルネットワークであっても、上記のいずれの活動を行うことができる場合には、電子商取引トレーディングフロアに該当することが明示されている。これは、ベトナムではFacebook等のSNSを使った電子商取引が頻繁に行われているため、それらも規制の対象となることを明示したものと考えられ、政令第85号に関する報道等ではこの点が注目されているが、この点は、実際には以前から電子商取引サイトの管理に関する通達第47/2014/TT-BCT号(以下「通達第47号」という。)でも定められていたものである。

 

 次に、上の表のうち、電子商取引の形態毎に適用される規制についての注釈は以下のとおりである。

  1. ※5  政令第85号による改正前は、自社電子商取引ウェブサイト事業を行う全てのサイトについて、商工省への通知が必要とされていたが、同改正により、オンライン注文機能があるもののみ同通知が必要となった。
  2. ※6  電子商取引サービス事業の提供は、外国投資家に対する市場アクセス条件付きのビジネスラインに含まれており、電子商取引サービス提供トレーディングライセンスの取得義務は、外資企業のみに適用される。
  3. ※7  電子商取引サイトの登録手続は、※5の電子商取引ウェブサイト開設通知手続きよりも提出書類が多く、所要時間も長い複雑なものである。これは、サイト運営者が売主として責任を取る自社電子商取引ウェブサイトに比べて、多数の売主が存在する電子商取引トレーディングフロア等では、偽物が混じるなど責任の所在が不明確になってトラブルが多くなりがちなため、それだけ厳しい規制を課しているものと思われる。

 

 なお、政令第85号では、商工省が発表するベトナムの電子商取引サービス市場の主要5企業(どれがその5企業に該当するかはまだ発表されていない。)のうち1つ以上の企業を支配する外国投資家に関する規定を新たに導入した。これにより、外国投資家がこれら5企業のいずれかの支配権を獲得しようとする場合(50%超の株式を取得する場合など)には、公安省による国家安全についての審査を経る必要があることになる。

(2)につづく

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

(Hoai・Truong)

2013年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、2019年に名古屋大学大学院法学研究科にて法学博士号を取得。翌年ベトナム弁護士資格を取得し、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。日越双方の法律に関する知識を活かして、ベトナムで事業活動を行う日本企業へのベトナム法のアドバイスを行っている。

 

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