◇SH3719◇インドネシア:オムニバス法の制定(14)〜簡素化された許認可手続の運用開始 福井信雄(2021/08/19)

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インドネシア:オムニバス法の制定(14)
〜簡素化された許認可手続の運用開始

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 2020年11月に雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)が施行され、施行から半年が経過し、大統領令や政令レベルの施行規則も概ね出揃い、いよいよ実務レベルでも運用が始まる段階にある。本稿では、オムニバス法により簡素化された許認可手続とその運用開始状況に関して紹介する。

 外資規制に加えて、インドネシア投資のもう一つのハードルが行政の複雑な許認可制度であったが、オムニバス法ではこれを大幅に簡素化した。具体的には、全ての事業分野を4段階のリスクレベル(低リスク、中・低リスク、中・高リスク、高リスク)のいずれかに分類し、リスクレベルに応じて必要な許認可を個別に定めるという新たな許認可制度の枠組みを導入した。かかるオムニバス法の関連規定を受けて、リスクベース許認可業務の実施に関する政令(2021年第5号)が2021年2月に施行され、インドネシア統計局が定める事業分類に沿って各事業分野が4段階のどのリスクレベルに該当するのかが規定された。ここで全ての事業分野について紹介することはできないが、具体例を挙げると以下のような分類がなされている。

 

低リスク 中リスク 高リスク
低リスク 高リスク

卸売業
(一部製品除く)

化粧品の卸売業

フレイト・フォワーディング業

病院事業

小売業
(一部例外あり)

家電の製造業

二輪車・四輪車製造業

乳製品の製造業

飲食業(50席未満)

飲食業(50席以上100席以下)

飲食業(101席以上200席以下)

飲食業(201席以上)

 

倉庫業

 

建設業

薬局事業

不動産事業

 

医療機器の製造業

大規模・中規模のEコマース事業

 

 この新たなリスクベースの許認可制度は2021年6月2日から実施予定であったが、システムの改訂作業の遅延等の理由で1ヶ月の延期が先月発表されていた。そして、7月2日には新たなオンラインシステムのウェブサイトが公開されたが(https://ujicoba-uuck.oss.go.id/)、現時点ではまだ試験的な運用期間とされており、正式な運用が開始されるのはもう少し先になりそうである。

 オムニバス法の施行により、法的な観点から見たインドネシアの投資環境は劇的に改善したと評価でき、インドネシア政府もこれが投資の起爆剤になることを期待していたはずである。2020年初頭から発生した新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、1000頁を超えるオムニバス法を制定し、さらに3ヶ月程度の短期間で50を超える施行規則を整備したのには、投資の呼び込みと雇用の創出に向けたインドネシア政府の並々ならぬ決意を感じるところである。インドネシア国内はジャカルタを中心に引き続き行動制限が実施され医療も逼迫するなど予断を許さない状況が続いており、国境を越えた投資活動の再開にはまだ時間がかかりそうではあるが、パンデミック収束後には魅力的な投資対象国として改めて脚光を浴びることになるかもしれない。

 


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(ふくい・のぶお)

2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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