SH3720 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第21回 第4章・Variation及びAdjustment(4)――工事等の内容の変更その4 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/08/19)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第21回 第4章・Variation及びAdjustment(4)――工事等の内容の変更その4

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第21回 第4章・Variation及びAdjustment(4)――工事等の内容の変更その4

6 Variationの評価(valuation)

 Variationの結果、代金額を変更する必要がある場合は、Engineer(Silver BookではEmployer’s Representative)によるVariationの評価(valuation)という形でその変更内容が決定される。かかる評価の方法は、FIDICの種類によって下記のように異なる。

⑴ Red Book

 作業量に応じたBQ精算を基本的な考え方とするRed Bookにおいては、Variationの評価も、基本的には作業量の測定と各作業項目の評価(measurement and valuation)によって行われることが想定されている(13.3.1項)。これを行う方法は、12項において細かく定められているが、概要としては、BQにレートまたは価格の定めがある作業項目については、同レート・価格を使って評価する一方、BQに定めのある項目と類似しない等の理由でBQ上のレートや価格を使って評価するのに適していない作業項目については、新たにレートまたは価格を設定することなる。その際にも、関連性のあるBQ上のレートや価格が参考にされるが、関連するものがない場合、Variationとして行う作業にかかるCost(およびContract Dataに定めのあるprofit。定めがない場合は5%)をもとに、他の関連事情も考慮して、新たなレート・価格を設定することとなる。

 

⑵ Yellow BookおよびSilver Book

 Lump sumでの代金支払いを前提とするYellow BookおよびSilver Bookでは、BQではなく、Schedule of Rates and Pricesが契約に含まれているか否かで取り扱いが分けられている(13.3.1項)。

 Schedule of Rates and Pricesが契約に含まれている場合には、これにおいて定められているレート・価格を用いてVariationとして行う作業の項目を評価することとなる。Variationの作業項目に対応するレート・価格が定められていない場合には、類似の作業項目のレート・価格を用いる。類似のものがなく、Schedule of Rates and Prices上のレート・価格を用いるのが不適切な場合には、新たなレート・価格を設定する。その際には、Schedule of Rates and Prices上の関連する項目をもとに、全ての関連事情を考慮して設定することとなるが、関連するものがない場合には、Red Book同様、Variationとして行う作業にかかるCostおよびProfitをもとに設定する。

 これに対し、Schedule of Rates and Pricesが契約に含まれていない場合は、初めからVariationとして行う作業にかかるCostおよびProfitに基づいて評価することとなる。

 

7 Variationに関する典型的な問題

 Engineerが主導するかContractorが主導するかにかかわらず、工事等の内容を変更するVariationは、工期やコストに影響する可能性が相応にあるため、当事者間での争いを引き起こす代表的な論点の一つである。

 具体的に争いになる問題は多岐にわたるが、典型的には、①そもそもVariationに当たるかどうか、②Variationの手続要件が満たされているかどうか、③Variationの評価が正当であるかどうか、といったことがよく問題になる。

 まず、そもそもVariationに当たるかという点については、たとえば、建設契約において明確に示されていなかった作業につき、追加の作業と捉えるか、もともとContractorの義務に含まれていたと捉えるか、といった形で問題となることがある。国際的な建設契約には、Contractorの担当する作業を詳細に定めたScope of Workや、仕様に関するSpecificationsが付属書類として含まれることが一般的であるところ、問題の作業がVariationに当たるか否かは、これらの付属書類における規定ぶりによって変わることもある。具体的には、Scope of Workにおいて、「その他Worksの完成のために必要なあらゆる作業」をContractorの担当とするような包括的な定めがある場合には、明確に特定されていなかった作業についても、もともとContractorの義務範囲に含まれており、Variationには当たらないと判断されやすくなるとも考えられる。また、Specificationsについても、使用されるべき資材について「最高品質のもの」など抽象度の高い定め方をした場合には、具体的に使用する資材が変更になっても、Variationに当たらない可能性がある。こうした観点からも、Scope of WorkやSpecificationsにおける作業範囲・仕様の特定は、当事者による慎重な検討を要するものであると言える。

 手続要件の充足の有無については、たとえば、Contractorは、EngineerによるVariationの指示を受領してから28日以内に工期や代金額の変更に関する提案を含む通知をすることとされているところ、Engineerによる指示の有無やその時期が不明確である場合に、どの時点から28日を起算するかなどの問題が見られる。EmployerやEngineerは、デザイン等の変更につき、正規のVariation手続を踏まずに、会議の席などでContractorに要望を伝えてくることも珍しくはない。この場合に、当該会議から28日以内にContractorが通知を行わなければならないか否かは、議論の余地がある。不確定要素を減らすためには、ContractorからEngineerに対し、正規のVariation手続を踏むよう求めることや、黙示の指示によるVariationの規定がある場合にはこれを利用することが望ましい。Employerに応じてもらえない場合や、該当する規定がない場合は、「○月○日の会議においてVariationに当たる指示があったが、契約上のVariationの指示であることを確認されたい。それまでは契約上のVariationの指示はないものとみなす」などと述べるレターをContractorからEngineerに送付するなど、工夫が必要となることも考えられる。

 Variationの評価の正当性は、EmployerからContractorに支払われる金額に直結するため、Engineerによる決定をContractorが争うケースが頻繁に見られる。具体的には、Contractorが、「Variationの価格は、BQではなく、Variationとして行う作業にかかるCostに基づいて算定されるべきである」と主張することがしばしばある。これは、BQにおける価格は、あくまで入札時の状況を前提に算定したものであり(ゆえに、調達費用等も、大量注文による値引き等が考慮されている)、施工環境が変わった場合にも適切な価格と言い得るかは疑問であることを根拠としている。しかしながら、Employer側の理解が得られず、紛争解決手続での決定を求めざるを得ないことも少なくない。その場合には、双方が専門家に依頼して、評価方法と評価額についての意見書を出し合うことが一般的である。

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