中国:『反外国制裁法』の制定と最初の適用事例(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
外国による中国への制裁に対する対抗措置を定める「反外国制裁法」が6月10日全国人民代表大会常務委員会(以下、「全人代常務委員会」)において可決成立し、即日施行された。本法は全16条からなる短いものであるが、米中対立が激化する状況下において、外国による制裁に対する中国側の報復的な対抗措置の根拠法となるものである。対抗措置は国家のみならず、広く外国の差別的措置に協力する外国組織も対象とし、措置の内容としても関連人員のビザの不発行、入国禁止、国外退去、中国国内の財産の押収、中国企業との取引の制限及び禁止など、中国関連の事業を行う日本企業又は中国現地の日系企業に重大な影響を与えうる内容となっている。
1. 背景及び適用事例
「反外国制裁法」は、2021年3月までに米国及びEUが新疆ウイグル自治区や香港を理由として中国に対して制裁措置を発動したことを受け草案が作成された。その後、米中対立の激化を受け、立法作業が加速化され、全人代常務委員会における2回の審議のみで6月10日に可決され、即日施行された。この間、通常行われる法案の公表やパブリックコメントの募集は行われなかった。
本法の施行以前に商務部は、2020年9月17日に「信頼できないエンティティリスト規定」を、2021年1月9日には「外国の法律及び措置の不当な域外適用の阻止弁法」(通称:ブロッキング規制)を施行して外国による対中制裁への対抗措置の規範化作業を進めていたところである。「反外国制裁法」は、これらの商務部門の規定について法律レベルの根拠を付与するものである。
中国外務省は2021年7月23日に「反外国制裁法」に基づき、米国のトランプ政権時代の前商務長官ら7の個人及び組織に対して制裁を科すことを公表したが、詳細な制裁内容は明らかにされていない。これは本法に基づく最初の適用事例と考えられている。
2. 主な内容
2. 1 対抗措置をとる状況
中国が対抗措置をとる状況として、「外国国家が国際法と国際関係の基本準則に違反し、各種口実やその本国の法律に依拠して我が国(注:中国)に対して抑制、抑圧を行い、我が国の公民、組織に対して差別的規制措置を講じ、我が国の内政に干渉する」場合と規定している(第3条)。いかなる措置が「差別的規制措置」に該当するかという点について明確な規定はなく、予見可能性担保されていない。この他にも「我が国の主権、安全、発展の利益を害する行為」も対抗措置をとる状況として規定されており(第13条、第15条)、裁量が広く認められる文言となっている。
2. 2 対抗措置の対象
本法では、上記差別的措置の制定、決定、実施に直接又は間接に関与した個人、組織として国務院の関係部門の決定に従い報復リストに記載される者に加え、国務院の関係部門は以下の関係者に対しても対抗措置を講じることができるとされている(第4条、第5条)。これらの対象には、外国政府のみならず、外国企業や中国国内の外資企業やその幹部等、中国の主権、安全、発展の利益を害する行為を実施、協力、支援する者も含まれ、対抗措置の対象も広い。
- (一)報復リストに加えた個人の配偶者及び直系親族
- (二)報復リストに加えた組織の高級管理職員又は実質支配者
- (三)報復リストに加えた個人が高級管理職員を担当する組織
- (四)報復リストに加えた個人及び組織が実質的に支配する又は設立、運営に関与する組織
(2)につづく
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(かわい・まさのり)
長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。
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