ベトナム:新企業法の草案(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナムでは定期的に法律の見直しが行われている。これは、ベトナムでは資本主義的な法整備の歴史が短いことに由来する。主要な法律について、一通り制定はしたものの、その後顕在化してきた実務の問題点などを踏まえて改正をしていこうということで、定期的な見直しを行うことが予め計画されているのである。例えば、2013年5月から施行されている新労働法の成立も(遅れはあったが)この予定に沿ったものであり、2013年末に成立した新憲法、新土地法も同様である。
新投資法及び新企業法の改正も、この予定に沿って準備が進められているところである。投資活動をめぐる基本的な枠組みを規定する新投資法の草案の内容については、以前の記事で中川弁護士が紹介している(タイムライン6月23日)。これと密接に関連して同時並行で準備が進められているのが、日本の会社法にあたる企業法である。この2つの法律は、ともに2005年に制定されたものが現在施行されおり、外国投資を含む企業活動にとって最も基本となる重要な法律である。そこで、今回から複数回に分けて、新企業法の草案の主なポイントについてご紹介したい。なお、2つの法律の草案は既に6月に国会に上程されており、本年末の国会通過が予定されている。本稿では、国会に上程された第5草案の内容を紹介する。
1 改訂の基本方針
筆者は、新企業法の草案作成を担当している経済管理中央研究所の担当者に直接話を聞く機会があった。その話の中で印象に残ったのは、今回の改訂の基本方針として、投資家の自由度を高めることにより対内投資の魅力を高めようとしているという点を強調していたことであった。今回は、この基本方針からみて一番重要な、事業目的による制限の解除という点についてご紹介したい。
2 事業目的による制限の解除
以前の中川弁護士の記事において説明されているとおり、新投資法草案では、会社設立手続と投資登録証の取得手続とを峻別し、外国投資家であっても条件付投資分野に該当しない分野への投資を行う場合には、簡便な会社設立手続のみで事業を開始できるようになる(但し、投資法の第5草案では、外国投資家による会社設立の場合には、投資許可証が不要な場合であっても、当局への「投資通知」を行うことが要求されている。この手続の詳細については政令に委ねられているため未確定であるが、外国投資家による事業活動の実質的な障害にならないか、懸念されるところである。)。
これに合わせ、新企業法の草案においては、企業の権利として、法律上禁止されていない範囲内で、事業目的を自由に選択し、それを実施する権利を有することが謳われている。これは、現行法においては、企業は企業登録証に定められた事業目的の範囲内でのみ事業ができると定められているのと対照的である。現行法の下では、外資系企業が新たな事業を始めるには投資証明証の変更が必要となるが、この改正が実現すれば、外資企業を含む企業は、条件付投資分野に該当しない分野については自由に自己の事業目的に加え、実施することができることになる。
もちろん、新企業法草案においても、条件付投資分野に該当する分野で事業を行うためには、必要な認可を得る必要がある。そして条件付投資分野の範囲は決して狭くはないため、その範囲の規定のされ方によっては、この改正によって利益を得られる分野は限られるかもしれない。
(つづく)