中国:『反外国制裁法』の制定と最初の適用事例(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
2. 3 対抗措置の内容
本法に基づく対抗措置の内容としては、関係者の出入国の制限措置のみならず、財産の差押えや押収、中国企業との取引の禁止等、中国企業と取引を行う外国企業又は中国国内の外資系企業に対して重大な影響を与えうる内容が規定されている。
- (一)査証の不発行、入国禁止、査証取消、国外追放
- (二)中国国内にある動産、不動産やその他の各種財産の差押え、押収、凍結
- (三)中国国内の組織、個人との関連取引、協力等の活動の禁止又は制限
- (四)その他の必要な措置
なお、国務院の関係部門によって決定された対抗措置は最終的なものとされ(第7条)、不服申立のための手段は用意されていない。
2. 4 対抗措置の実施義務
中国国内のあらゆる個人及び組織は、国務院の関係部門が講じる対抗措置を実行しなければならず、これに違反する場合は、関連活動に従事することを禁止又は制限するとされている(第11条)。また、いかなる組織及び個人も対抗措置を実行し協力する義務があり、違反する場合には法的責任を追及する旨も重ねて規定されている(第14条)。このため、中国が対抗措置として外国の特定の企業との取引を禁止する場合、中国国内の外資企業もこれに従い取引停止等の義務を負い、義務に違反して取引を継続する場合には関連する事業について禁止又は制限措置を受けることになりうる。
2. 5 外国の差別的措置への協力禁止
上記に加え、いかなる組織及び個人も外国国家による差別的規制措置の実行又は実行の協力をしてはならず、これに違反し中国の公民及び組織の権益を侵害した場合には、当該中国の公民又は組織は人民法院に訴訟を提起し、侵害の停止及び損害賠償を求めることができるとされている(第12条)。本条は、義務の対象地域を限定しておらず、域外適用を前提とする規定との評価がある。例えば、米国による新疆産の綿製品の輸入禁止措置に応じた外国企業が中国国内で訴訟提起されるといった事態も想定される。
3. まとめ
以上紹介したとおり、本法は中国政府対抗措置を講じる状況について広い裁量を認め、外国企業を含む広範な対象に対して、強い対抗措置を認める内容となっている。さらには、対抗措置の実施義務や外国の差別的措置への協力禁止も規定されていることから、中国企業と取引を行う日本企業や中国国内の日系企業が米国をはじめとする制裁措置との間で板挟みの状況になることも想定される。国際情勢の動向によっては本法に基づく対抗措置が広く発動されることも否定できず、この観点からはサプライチェーンの再評価を行う必要性が高まっているといえよう。
最後に、「反外国制裁法」の適用対象から香港は明示的に除外されていないことから、本法が香港及びマカオにも適用されることが8月以降に決定されるとの報道もある。この場合には、香港に拠点を置く企業に対して重大な影響が生じる可能性があり、この点においても「反外国制裁法」に関する動向を注視する必要がある。
以 上
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(かわい・まさのり)
長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。
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