◇SH3753◇ベトナム:新労働法における賃金に関する変更点と新型コロナウイルス感染症(2) 井上皓子(2021/09/14)

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ベトナム:新労働法における賃金に関する変更点と
新型コロナウイルス感染症(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

(承前)

 この新法の下、労働傷病兵社会問題省は、新型コロナウイルス感染症の直接的な影響を受けた場合についての例示を挙げ、その場合における休業中の労働者への賃金の支払いガイドラインとして、公文書第264/QHLDTL-TL(「公文書264」)を発行しました。なお、旧法下では、同様の問題について、2020年3月25日に公文書第1064/LDTBXH-QHLDTL号が発行されており(「SH3123 ベトナム:労働法Q&A Covid 19と労働問題に関するオフィシャルレター①」及び「SH3125 ベトナム:労働法Q&A Covid 19と労働問題に関するオフィシャルレター②」で解説しています)、公文書264はこれに代わるものです。

 公文書264は、法第99条第3項に従って休業中の減額した賃金を支払うことができる場合として、単に新型コロナウイルス感染症に関連する休業では足りず、「新型コロナウイルス感染症の直接的な影響」を受けた場合に限定しています。そして、「新型コロナウイルス感染症の直接的な影響」を受けた場合とは、(ⅰ)当局の要請により労働者が隔離された場合、(ⅱ)当局の要請により職場または居住所が閉鎖された場合、(ⅲ)当局の要請により新型コロナウイルス感染症予防のため会社が休業しなければならない場合、(ⅳ)使用者または会社の他の部課が隔離されるため休業しなければならない場合等とされています。この内容は、昨年の公文書1064をほぼなぞるものですが、公文書1064では記載のあった「当局の要請により、就労目的で企業に戻ることができない外国人労働者」は削除されています。外国人であっても、ベトナム国内にいて上記の理由により休業しなければならない場合は、ベトナム人と同様に公文書264の対象となるため、特に記載する必要がないためです。また、「当局の要請により職場または居住所が封鎖された場合」が新しく追加されています。

 例えば、現在、ベトナム各地で、外出自粛・一定の事業の営業停止等を要請する首相指示第16/CT-TTg号(「指示第16号」)が実施されていますが、これに基づき、営業を停止せざるを得ない事業については、公文書264が規定する、休業中賃金が減額できる対象になるものと考えられます。また、最近の新型コロナウイルス感染症の予防対策として、政府が会社に対し、労働者が現場で食・寝・働を行うことを要求している場合があります。この場合であって、会社がその要求に対応できないため、またはその対応の準備のため休業しなければならないために労働者が休業を余儀なくされるときは、法第99条第3項が適用されます。他方、労働者が職場で宿泊することを拒否したため出勤することができず、結果的に休業することになる場合は、ガイドラインに明確な記載はないものの、労働者の故意による休業の場合(99条第2項2号)に該当し、会社は当該労働者に対し休業中賃金を支払う必要がないと考えられます。

 


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(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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