◇SH3789◇ベトナム:労働許可証取得要件の緩和指示 澤山啓伍(2021/10/14)

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ベトナム:労働許可証取得要件の緩和指示

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 ベトナム政府は、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、企業、協同組合及び経営世帯の支援に関する2021年9月9日付決議第105/NQ-CP号(以下「決議105号」)を公布しました。この決議105号には、新型コロナウイルス感染症対策としての様々な施策が盛り込まれていますが、その中に、政府政令第152/2020/NÐ-CP号(以下「政令152号」という)に定められた労働許可証の対象となる専門家・技術者の条件及び申請書類等を一部緩和するよう、労働傷病兵社会省に指示する内容が含まれています。この政府決議は、国会常任委員会の2021年8月6日付決議第268/NQ-UBTVQH15において、政府に対して、新型コロナウイルス感染症への対応のため、特例的に法律に優先する内容の議決を公布する権限を与えていることに基づくもので、労働傷病兵社会省は、9月中に各地方の労働局にこの指示に従って実施するよう指導することになっています。

 

 決議105号が指示している労働許可証取得要件に関する緩和の主な内容は以下のとおりです。

 

  政令152号 決議105号

専門家の定義

「a) 大学レベル以上の卒業証明書または同等の証明書類を持ち、ベトナムで就労する予定の職位に適合する分野を専攻し、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ者

(政令152号第3.3 (a) 条)

「大学レベル以上の卒業証明書または同等の証明書類を持ち、ベトナムで就労する予定の職位に適合する仕事に3年以上従事した経験を持つ者

 

技術者の定義

「a) 最低1年専門技術またはその他の専門教育を受け、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験をもつ者

(政令152号第3.6 (a) 条)

最低1年専門技術またはその他の専門教育を受け、ベトナムで就労する予定の職位に適合する仕事に3年以上従事した経験を持つ者

専門家又は技術者であることを証明する文書・書類

「専門家・技術者の経験年数に関する海外機関・組織・企業の書面・証明書・確認書等」

(政令152号第9.4 (b) 条)

「専門家・技術者の経験年数に関する海外機関・組織・企業の書面・証明書・確認書等、又は従事経験を示す発行済労働許可証」

 

労働許可証免除対象の申請、労働許可証発行申請、労働許可証更新の必要な申請書類

「法律に基づき有効なパスポートの公証付写し

(政令152号第8.3 (d) 条、第9.7条、第17.5条)

「法律に基づき有効なパスポートの写し

 

 今回の緩和指示の最も重要な点は、専門家の定義において、ベトナムでの職務内容と学歴との一致が要求されなくなっている点です。これについては、SH3561 ベトナム:ベトナムでの就労が認められる外国人労働者の範囲(2021/04/01)でご紹介させていただいたとおり、政令152号で専門家の定義から、「企業が専門家であると認定した証明書を有する場合」が除外されたことで、実務上大きな悪影響が生じ問題視されていたことが背景にあります。今回の決議105号による緩和は、必ずしも新型コロナウイルス感染症流行とは関係無く、実務からの批判を受けて行われたものと推察されます。

 他方で、専門家・技術者の定義において、ベトナムでの職務内容に合致する3年間の職務経験は引き続き求められていますので、留意が必要です。

 3点目の証明書類については、一部の当局で、ベトナムに来て以降の国内での職務経験を上記の過去の職務経験に含めないという運用がされ、実務から批判があったことを受けて、発行済労働許可証を専門家・技術者であることの証明書類として明記し、国内での経験もカウントされることを明確にしたものと思われます。

 4点目の外国人労働者のパスポートに公証が必要なくなったのは、ロックダウンによる移動制限に配慮したものでしょう。

 なお、決議105号は、有効な労働許可証を保持している外国人労働者が、6か月以内の期間他の地方・都市で就労することも認めるよう指示しています。この場合、本来であれば必要な労働許可証の再取得が決議105号により免除されます。ただ、使用者は、外国人労働者が一時的に勤務する地方の労働管理機関に届出を行う必要があります。

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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