中国:【速報】個人情報の越境移転の規制緩和なるか
~データの越境移転の促進および規範化規定(パブコメ版)の公表~
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
外国法弁護士 艾 蘇
はじめに
2023年9月28日に、「データの越境移転の促進および規範化規定」のパブコメ版(以下、「本規定案」という。)が公表され[1]、これまで一律に厳格な対応が求められていた個人情報やデータの越境移転の規制緩和が図られる内容が含まれていることで大きな注目を集めている。
現行法上は、中国域内で収集した個人情報または重要データを域外に移転させる場合には、主管当局[2]による安全評価(以下、「安全評価」という。)[3]、主管当局の規定に従う専門機構による個人情報保護の認証(以下、「保護認証」という。)[4]、または主管当局の定める標準契約の締結(以下、「標準契約」といい、安全評価および保護認証と総称して「事前手続」という。)[5]のいずれかの手続を行う必要があるとされている[6]。本規定案は、事前手続を経ずに個人情報やデータを中国域外に移転することができる場面を示しており、個人情報取扱者が個人情報の越境移転に関して負う事務負担が大きく軽減されることが期待される。
特に、越境移転する個人情報の数量が1万人未満となることが見込まれる一般的な外資系企業において、標準契約の締結が不要となるとされている点については、実務への影響が大きい。
なお、重要情報インフラ運営者による越境移転については、既存の法令に従うとされている(本規定案8条)。
1 事前手続が不要な場合
本規定案では、以下のいずれかに該当した場合に、事前手続が不要とされている。
- ⑴ 国際貿易、学術的提携、クロスボーダーの製造および営業等の活動で生じた、個人情報または重要データを含まないデータを域外に提供するとき(本規定案1条)。
- ⑵ 中国域外で生じたまたは収集した個人情報を域外に提供するとき(本規定案3条)。
- ⑶ 個人が一方の当事者となった契約を締結または履行するために必要となったとき。例えば、越境ショッピング、クロスボーダー送金、航空券・ホテルの予約、ビザ申請等、個人情報を域外に提供する必要があるとき(本規定案4条1項)。
- ⑷ 適法な労働規則制度および集団契約に基づき人事管理を行うために従業員の個人情報を域外に提供する必要があるとき(本規定案4条2項)。
- ⑸ 自然人の生命健康および財産安全を保護するために個人情報を域外に提供する緊急の必要があるとき(本規定案4条3項)。
- ⑹ 1年以内の域外への個人情報の提供が1万人未満と見込むとき(本規定案5条)。
- ⑺ 自由貿易試験区が制定するデータ・ネガティブリストに該当しないデータの域外提供(本規定案7条)。
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(かわい・まさのり)
長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。
(Su・Ai)
2017年九州大学法学部交換留学。2018年華東政法大学法学部及び日本語学部卒業。2022年東京大学大学院法学政治学研究科卒業、長島・大野・常松法律事務所入所。日中間の法律業務を中心に、クロースボーダー取引、企業再編、紛争解決等、幅広い分野で法務サポートを行っている。
(※中国での律師登録は行っていません。)
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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