◇SH0944◇タイ:タイにおけるFinTech関連の動向・アップデート―時限的なサンドボックス設置等を中心に― 箕輪俊介(2016/12/26)

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タイにおけるFinTech関連の動向・アップデート

―時限的なサンドボックス設置等を中心に―

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 近年、FinTech関連の記事が紙面を賑わせ、毎日のようにその関連のニュースが目に入ってくる。ここ1ヵ月の動きをみても、日本では3大メガバンクが全銀システム業務にブロックチェーンを適用する実証実験をビットコインスタートアップの雄、bit flyerと共同して行ったり、近隣国でもインドネシアにて中央銀行がフィンテックオフィスを開設したり、地域を問わずアジアの各地で多くの動きが出てきている。この傾向はタイにおいても例外ではない。

 

1. 最近の動向

 FinTech導入の動きについては政府も積極的であり、証券取引員会(SEC)及びタイ中央銀行(BOT)双方により官民連携で技術開発に取り組むことが検討されている。

 タイ中央銀行は、金融分野での技術革新を目的として、2017年に向けてサンドボックスを設けることを検討している。このサンドボックスにおいては、タイ中央銀行による監視の下、商品提供のために通常要求される要件・規制(タイ中央銀行が管轄するもの)の一定程度の緩和という優遇措置が設けられており、事業者は自らが開発したイノベーティブな金融商品について、試験的に消費者に提供し、その技術について実際のマーケットを通じて検証を行うことが可能となる。このサンドボックスは2017年の第一四半期を目標に商業銀行に向けてリリースされる予定であり、商業銀行以外のFinTech業者に対しても順次利用の門戸が開かれる予定である。

 また、証券取引委員会も、投資助言業務や決済関連業務等、証券取引委員会が管轄する規制業種に関し、イノベーティブな技術を開発するための時限的なサンドボックス(18ヵ月間)を2017年の半ばに開設することを検討している。また、証券取引にあたってブロックチェーン技術を導入するための法改正についても検討がなされている。さらに、2017年1月1日付でFinTech departmentを開設することを予定している。

 

2. 法整備に関して

 上記のとおり、政府機関はFinTech技術の発展について積極的であり、上記のような新技術の導入に併せて、今後発生していく法的問題をどのように処理するのか、新たな立法措置が急務となるであろう。

 例えば、仮想通貨に関していえば、日本においてはその法的性質等について議論が進みつつあるが(つい先日も譲渡にあたって消費税を課さないという方針が打ち出される等しているが)、仮にビットコインのような仮想通貨の導入を認める場合、仮想通貨の定義をどうするのか、仮想通貨を資産として捉えるのか、通貨として捉えるのかといった根本的な問題や、仮想通貨が会計上はどのような取扱いになるのか、譲渡にあたって付加価値税やキャピタルゲイン課税が課されるのか、といった実務的な課題については、未だタイでは十分な議論がなされていない。

 

3. 外資規制との関係

 FinTechのような新規事業をタイで検討するにあたり、常に問題となるのは外資規制の問題である。

 タイにおいては、サービス業全般が広く外資規制の対象となるところ、FinTech関連の事業はサービス業に該当するため、外資ステータスの法人(外資が半数以上の株式を有する法人)による参入が制限される。そして、この外資規制については、現時点のところ、FinTechに関連した緩和措置は取られていない(上述したサンドボックスにおいても、タイ中央銀行や証券取引委員会が管轄する規制に関する緩和は一定程度図られるであろうが、外国人事業法に基づく外資規制は商務省の管轄であるため、外資規制に関しては緩和措置は取られないであろう。)。

 外資規制の対象業種を外資ステータスの法人が行うためには商務省の許可(外国人事業ライセンス又は外国人事業許可)を取得することが必要となるが、当局は許可の発行に消極的であり、先例主義的な傾向が強い(これまでに許可を与えたことがある業務については許可が出やすく、これまでに許可を与えたことがない業務については許可が出にくい傾向にある。)。

 但し、先例のないものが全く許可されないというわけではなく、その許否の検討にあたり事業の新規性、タイ経済への寄与等が重要視されることも事実である。タイにおいて現在国内企業が持っていないような新技術を持ち込んだり、新しいアイディアを持ち込んだりすることは商務省も歓迎しているという側面もある。そうだとすると、上記のような商務省の保守的な運用状況にあっても、その新規性に着目し、FinTechを中心に据えた事業を行うにあたり、商務省が許可を与える可能性もあり得ない訳ではないものと思われる(新規分野において許可の取得をチャレンジする場合には、許可を与える価値のある新技術であること、国益に寄与する可能性のある産業であることをどのように商務省へ説明をするのか、というプレゼンテーション・アピールの方法も重要になってくるものと思われる。)。

 

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