日証協、IPO時の公開価格設定プロセスのあり方について報告書を取りまとめ
――計6回の会合を経てワーキング・グループ報告書が公表、改善策は6月から実施へ――
日本証券業協会は2月28日、「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」報告書を公表した。
日証協では昨年(2021年)9月14日に「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」(主査・神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設置(背景・課題などについて、SH3769 日証協、IPOにおける公開価格の設定プロセスのあり方に関して改善策等の検討を開始――主幹事証券・スタートアップ・投資家らでワーキング、2021年中に議論取りまとめへ (2021/09/29)既報)。初会合を9月16日に開いたのち、本年(2022年)1月31日までに計6回の会合開催を経て、報告書の取りまとめ・公表に至ったものである。
報告書は、まず現状に対する問題意識を「日本における初値と公開価格の乖離」「発行会社の視点からの問題意識等」「日本における割当比率及び機関投資家の視点からの問題意識等」の3つの観点から指摘したうえで、論点を(ア)制度・実務等に関連する論点(本協会規則や実務対応による改善が可能な事項および法令・ガイドラインの改正を要望する事項)、(イ)取引所規則等に関連する論点(取引所と連携を図る事項)、(ウ)その他の課題等(将来的に検討が必要な事項等)といった3つに大別して整理・掲出。多岐にわたる個別の論点については一つひとつ<現状の課題>を説明しつつ、対応する<改善策><本WGでの主な意見・要望>を提示するものとなっている。
改善策の検討にあたっては「投資者保護を図るとともに、公開価格の算定根拠等について発行会社から納得感が得られていない案件も一部ある状況に対して、発行会社、投資者及び証券会社等のそれぞれの関係者が協力することにより制度全体を見直し、公正な価格発見機能の向上や発行会社及び投資者の納得感の向上につなげることに主眼を置いて議論を行った」とされる(編注・報告書4~5頁参照。報告書原文にある脚注については略、以下同様)。
上記(ア)関係について掲げられた論点をみると(1)公開価格の設定プロセスの見直し、(2) 発行会社や投資者への情報発信(主幹事証券会社別の初期収益率等の公表)、(3)機関投資家との対話促進(プレ・ヒアリングの留意点の周知および実施の推奨)、(4)発行会社との対話促進(なお、上記(イ)取引所規則等関連として4点、(ウ)その他として3点が挙げられている)。
さらに(ア)のうち上記(1)関係の諸施策として、①仮条件の範囲外での公開価格設定、②上場日程の期間短縮・柔軟化、③有価証券届出書への想定発行価格や手取金概算額の記載方法の見直し、④売出株式数の柔軟な変更、⑤国内、海外並行募集時のオーバーアロットメントの上限数量の明確化、⑥価格設定の中立性確保――の6点が挙げられる(編注・特に①・②は「公正な価格発見機能の向上に直結する改善策」〔報告書26頁参照〕とされる)。(4)に関しては、①機関投資家への割当および開示、②実名による需要情報等の提供、③発行会社への公開価格等の納得感のある説明、④主幹事証券会社の追加・変更等――の4点である。
たとえば、上記(ア)の(1)公開価格の設定プロセスの見直しに係る論点を仔細にみると、①の「仮条件の範囲外での公開価格設定」として提示された改善策は、現行「例えブックビルディングにおいて仮条件の範囲を超えた価格での需要が見込まれる場合であっても、仮条件の上限価格で公開価格が設定されている」課題に対応。具体的には(A)仮条件の範囲の拡大、(B)ブックビルディングにおける申告方法の見直し、(C)仮条件の範囲外での公開価格の設定――により臨むことが提案されている。また、ここでは「本改善策を実施するに当たっては、仮条件の範囲外で公開価格が設定される可能性がある旨や公開価格の公表・伝達方法について、あらかじめ投資者に説明し、投資者保護を図る必要がある」といった留意事項が付記された(報告書6~7頁参照)。
同様に、(ア)の(1)②の「上場日程の期間短縮・柔軟化」は「IPOの上場承認日から上場日までの期間が長いことにより、投資者や発行会社は市場環境等の変化による価格変動リスクを負うこととなり、そのリスクが公開価格に織り込まれることによりディスカウントが大きくなっている」などの課題に対応し、具体的には(A)上場承認日から上場日までの期間(21日程度に短縮)、(B)仮条件決定日から上場日まで(9日程度に短縮)、(C)公開価格設定日から上場日まで(4日程度に短縮)、(D)上場日の設定――について、それぞれ短縮化・柔軟化を図る改善策として示された(報告書7~10頁参照)。
日証協では、報告書の公表に際し「『公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ』報告書の概要について」を併せて公表している。本概要ペーパーには個別論点ごとの改善策などとともに「実施目途」となる時期が分かりやすく記載されており、たとえば上述した(ア)の(1)①・②については、ともに「2022年12月」と明記。解釈の明確化や協会規則の改正に係る改善策のうち早期に対応できるものとして「2022年6月」を実施目途とする論点・改善策も複数あり、適宜参考とされたい。