SH3936 ベトナム:労働者を外国の関連会社等に出向させる場合の規制(1) 澤山啓伍/Hoai Truong(2022/03/14)

そのほか労働法

ベトナム:労働者を外国の関連会社等に出向させる場合の規制(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

ベトナム弁護士 Hoai Truong

 

 日系企業を含む外資企業では、自社のベトナム労働者を、その知識・技能水準の向上のため、外国の親会社や関連会社に出向させ、OJTで訓練することが珍しくない。このような場合、労働者がベトナムでの労働契約に基づいて外国で訓練を受けるため、外国での訓練についてもベトナム法上就労とみなされ、契約に基づいて外国で働くベトナム人労働者に関する法令の規制が適用される可能性がある。この分野の法令については、最初の法律が2006年に公布され、運用されているが、今年1月1日から新たな法令(契約に基づいて外国で働くベトナム人労働者に関する法69/2020/QH14号(以下「労働者送出法」という。)及び政令第112/2021/NĐ-CP号)が施行された。今回から2回にわたり、訓練を目的として外国の関連会社等に自社従業員を出向する場合に、その方法や関連手続きを説明する。

 

1 2つの方法

 労働者に外国の関連会社等(以下「受入先」という。)で訓練を受けさせる方法としては、以下の2つが考えられる。

  1. A) 現地法人と当該労働者との労働契約を維持したまま、追加で労働法第62条に定める職業訓練契約を締結し、出向させる方法
  2. B) 労働者を一旦ベトナム現地法人から退職させ、受入先と当該労働者との間で直接労働契約を締結させる方法。訓練終了後、当該労働者は受入先を退職し、帰国後現地法人との間で再度労働契約を締結する。

 今回はA) について説明し、次回B) について説明をしていく。

 

2 現地法人との労働契約を維持したまま、追加で締結する職業訓練契約に基づき外国で就労させる場合

 A) の場合、ベトナム現地法人と当該労働者との労働契約は維持されたままとなり、現地法人の費用負担で労働者を受入先に派遣することとなる。労働者送出法は、ベトナム人労働者が契約に基づいて外国で就労する形態の一つとして、このような形態で労働者が外国で就労する場合を規定しており(同法第5条第2項第c号)、このような形で労働者が外国で就労する場合には、次の要件を満たす必要があると定めている(同法第36条、政令第112/2021/NĐ-CP号第26条)。

  1. (ⅰ) 派遣元である現地法人と、外国の受入先との間で締結された労働者受入契約が存在し、同契約が管轄 機関に承認されていること
  2. (ⅱ) 派遣元である現地法人が、労働者が受入先からベトナムに帰国するエコノミークラスの航空券の10% に相当する寄託金を銀行等に保有していること
  3. (ⅲ) 派遣元である現地法人が、労働契約及び外国における職業訓練契約を締結している労働者のみを、労働者受入契約に基づく受入先に対し訓練のために派遣すること
  4. (ⅳ) 外国における訓練・職業技能水準の向上のために働く労働者の業種・職種、具体的な仕事が、ベトナム現地法人の事業内容に適合していること

 ベトナム現地法人、労働者、受入先の3者間の契約関係は以下のとおりとなる。

 

 

 これらの契約のうち、②外国における職業訓練契約については、ベトナム労働法令及び労働者受入契約に適合している必要がある(労働者送出法第38条第2項)。ベトナム労働法令に適合していることが必要な内容としては、例えば、外国における職業訓練契約に訓練する職業、訓練期間中の住所・時間・賃金、訓練を受けた後に労働に従事しなければならないと誓約した期間、訓練費用及び訓練費用の返済責任の記載、使用者及び労働者の責任といった事項を定める必要があるとする、労働法第62条第2項の規制を意味するものと考える。

 ③労働者受入契約については、労働者送出法第37条に定める内容に適合することが必要となる。特に、食事、宿泊、生活、通勤手段等の条件、健康診断・医療制度、保険、外国で働く期間中に労働者が直面するリスクに関わる各当事者の責任等の労働者の権利・利益の保護に関する条項を定めることが求められる。

 また、労働者受入契約は、管轄機関に登録し、承認を受ける必要がある。登録は、ベトナム人労働者の外国での就労期間が90日未満である場合はベトナム現地法人の本社の所在地の労働局に、90日以上である場合は労働・傷病兵・社会問題省に対して行うこととなる(労働者送出法第39条及び第40条)。

 なお、外国の受入先に労働者を訓練のために送る場合、ベトナム現地法人は、当該労働者及び国家に対し、以下のような義務を負う(労働者送出法第41条2項)。

  1.   労働者が外国に行く前に、オリエンテーション教育コースに参加させ、オリエンテーション教育コース修了証を取得させること
  2.   労働者が出国した日から5営業日以内に、契約に基づいて外国で就労するベトナム人労働者のデータベースシステム上の情報をアップデートすること
  3.   外国に派遣された労働者の正当な権利・利益を保護すること
  4.   外国に派遣中の労働者の適法・正当な権利・利益を保護するためにベトナムの外交機関、ベトナム領事館と協力すること
  5.   外国における訓練・職業技能水準の向上の期間が終了した労働者に適切な仕事を提供すること

(2)につづく

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

(Hoai・Truong)

2013年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、2019年に名古屋大学大学院法学研究科にて法学博士号を取得。翌年ベトナム弁護士資格を取得し、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。日越双方の法律に関する知識を活かして、ベトナムで事業活動を行う日本企業へのベトナム法のアドバイスを行っている。

 

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