◇SH1532◇ベトナム:【Q&A】一人の労働者に2社の業務を兼務させる方法 澤山啓伍(2017/12/06)

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ベトナム:【Q&A】一人の労働者に2社の業務を兼務させる方法

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

  1. Q. 弊社は、ハノイ市とハイズン省にそれぞれ子会社を有しています。ベトナム人従業員一人を雇用し、この二つの会社の業務を兼務させたいと考えていますが、そのような兼務は法的に可能でしょうか?
  2.  
  3. A. ご質問のように一人の従業員(以下「X」といいます。)に複数の会社の業務を行わせたい場合、以下の方法を取ることが考えられます。

  ① 当該従業員を一方の会社でのみ雇用し、その会社が他方の会社から業務委託を受ける方法。

  ② 当該従業員に、両方の会社との間での労働契約を締結させる方法。

  以下、それぞれの方法について、説明致します。

 

シナリオ1:一方の会社から他方の会社への業務委託とする方法

 この場合、Xとの労働契約は一方の会社(以下「A社」といいます。)との間だけで締結します。A社と他方の会社(以下「B社」といいます。)との間では、業務委託契約を締結し、B社の業務の一部をA社に委託し、B社からA社に対価を支払う形にします。

 この場合、以下の点に留意していただく必要があります。

 まず、A社は、業務委託を受けてB社の業務の一部を行うことになりますので、その業務を行うことが、A社の事業目的として認められ、投資登録証にも記載されている必要があります。

 次に、XがB社の業務を行うに当たって、B社から直接の指揮命令を受けないようにする必要があります。現行の規制上、会社が事業として労働者派遣を行うためには、労働者派遣事業許可を取得する必要があります(労働法第54条)。また、労働者派遣で行うことができる業務の内容は、翻訳・通訳、秘書・総務支援など一部の業種に限られています。労働者派遣は、「労働者派遣業務の許可を受けた企業によって採用された労働者を、別の雇用者の管理の下で就労させること」と定義されていますので、「別の雇用者の管理の下」にあるかどうか、本件でいえばXがB社の管理下にあるかどうかがポイントになってきます。XがB社に赴いて業務をしなければならないような場合には、どうしてもB社の管理下にあるように見えてしまう場合が多いだろうと思いますので、次のシナリオ2を採るほうがよいものと思います。

 

シナリオ2:労働契約を複数締結する方法

 ベトナムでは、公務員を含め労働者の副業が一般的に行われていますが、法律上も、労働者が複数の雇用者と労働契約を締結する権利が明確に定められています(労働法第21条)。したがって、XがA社及びB社の両方と労働契約を締結することも、なんら不自然なものではありません。Xが実際にA社にもB社にも出勤する必要があったり、A社とB社のそれぞれの上司から指示を受ける必要がある場合には、この方法を採るのが望ましいと思います。

 但し、この場合には以下の点に留意していただく必要があります。

 まず、労働法第23条によれば、労働契約には、勤務場所及び勤務時間を規定しなければなりません。したがって、例えばXが週の前半はA社に、後半はB社に出勤するという場合には、そのように労働契約の勤務場所及び勤務時間を規定する必要があります。他方、Xが通常A社にて勤務を行う場合には、B社との労働契約における勤務場所及び勤務時間の書きぶりを工夫する必要があります。

 さらに、複数の労働契約を締結している従業員に対する社会保険、健康保険及び労災保険などに関して、下記のように取り扱う必要があります。

 まず、社会保険料及び失業保険料については、政令44/2013/ND-CP号第4条1項に従い、最初に締結した雇用者との労働契約に基づき加入することになります。但し、同条に従い、他の雇用者は、給与の支払日に、当該従業員に対して法令に従って強制社会保険及び失業保険の保険料に相当する金額を支払う必要があります。

 健康保険については、政令44号第4条2項に従い、最も高い給料が支払われる労働契約を締結した雇用者との関係で加入することになります。但し、他の雇用者は、当該従業員に対して健康保険料の雇用者負担分に相当する金額を支払う必要があります。

 労災、職業病保険については、それぞれの労働契約との関係で加入する必要があります(ベトナム社会保険機関の決定595/QD-BHXH号第42条1項1号)。

 

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