SH3991 「カーボン・クレジット・レポート(案)」に係る意見募集(2022年4月13日) 宮川賢司(2022/05/10)

組織法務サステナビリティ

「カーボン・クレジット・レポート(案)」に係る意見募集
(2022年4月13日)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 宮 川 賢 司

 

1 はじめに

 2015年12月に採択されたパリ協定を背景に脱炭素の気運が世界的に高まる中、日本政府は、2030年の温室効果ガス排出量(以下「GHG排出量」という。)を2013年度比で46%削減し2050年にはカーボンニュートラル[1]を実現する目標(Nationally Determined Contribution、以下「NDC」という。)を掲げており[2]、この目標を達成する手段の一つとしてカーボン・クレジット等の経済的手法が注目されている。すなわち、各国政府はその領域内に属する企業や個人(家庭)による省エネや再生可能エネルギーの拡大等の努力によりGHG排出量を自ら削減してNDCを達成することが基本であるが、パリ協定6条(市場メカニズム)は、カーボン・クレジット等の経済的手法を活用して世界的な排出削減に貢献し、一定の条件において当該削減量を国際的に移転することを認めている。その意味で、カーボン・クレジットは、社会全体でコスト効率的かつ技術中立的にGHG削減・吸収を進めることができ、自社の削減を補完するものとして、カーボンニュートラルの実現に向けて不可欠な手法[3]と指摘されている。

 しかし、カーボン・クレジットには様々なものが存在するため、各カーボン・クレジットの位置づけの明確化等が求められていた。これを受けて、経済産業省が設置した2つの検討会・研究会[4]において2021年2月から2022年3月にかけて集中的な議論がなされ、その議論を集約した「カーボン・クレジット・レポート(案)」[5](以下「本レポート案」という。)が2022年4月13日にパブリックコメントにかけられた[6]

 カーボン・クレジットをめぐる論点は多岐に渡るため、本稿では、本レポート案の主要論点を紹介した上で、カーボン・クレジットにかかわる各企業や金融機関が気を付けるべき主要ポイントに絞って検討する。

 

2 本レポート案の主要論点

 本レポート案の主要論点について、カーボン・クレジット取引の視点からいくつか紹介する。

⑴ カーボン・クレジットの定義(本レポート案2.1(4頁以下)参照)

 カーボン・クレジットという場合、一般的には以下の2つの類型が存在するが、本レポート案では①のベースライン&クレジットを想定している。

① ベースライン&クレジット

排出削減プロジェクトを対象に、そのプロジェクトが存在しなかった場合の排出量および炭素吸収・炭素除去量(以下「排出量等」という。)の見通し(ベースライン排出量等)と実際の排出量等(プロジェクト排出量等)の差分について、MRV(モニタリング・レポーティング・検証)を経て、国や企業等の間で取引できるよう認証したもの

② キャップ&トレード

特定の組織や施設からの排出量に対し、一定量の排出枠を設定し、実排出量が排出枠を超過した場合、排出枠以下に抑えた企業から超過分の排出枠を購入する仕組み

⑵ 国内外のカーボン・クレジットの制度・種別(本レポート案2.3(7頁以下)参照)

 現在国内外で運営されているカーボン・クレジットの具体例として、以下のようなものが紹介されている。

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(みやがわ・けんじ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャル・カウンセル弁護士。1997年慶應義塾大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2004年ロンドン大学(University College London)ロースクール(LLM)修了。2019年から慶應義塾大学非常勤講師(Legal Presentation and Negotiation)。国内外の金融取引、不動産取引、気候変動関連法務および電子署名等のデジタルトランスフォーメーション関連法務を専門とする。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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