SH3996 中国:独禁法の改正が年内に成立する見通し及び改正案の要点 鹿はせる(2022/05/16)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

中国:独禁法の改正が年内に成立する見通し及び改正案の要点

長島大野常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

1 中国独禁法改正の成立時期の見通し

 中国独禁法については、2020年1月には競争当局である国家市場監督管理総局(SAMR)から、2021年10月には全国人民大会(「全人代」)常務委員会から相次いで改正案が公表されていたが、改正時期は未定であった。しかし、今年5月7日に公表された全人代常務委員会の2022年立法計画で、6月に独禁法改正に関する審議が行われることが明記された。過去の同種法案の立法スケジュールを踏まえると、今年中に改正法が成立する見通しが高まったといえる。

 以下では、2021年10月の全人代常務委員会が公表した改正案に基づき、日系企業にとって影響が大きい改正の要点をおさらいする。

 

2 独禁法改正の要点

⑴ 処罰の厳格化

 以下の通り、改正案では法令に違反した場合の制裁金が現行法から大幅に上昇し、特に日系企業にとっては、企業結合[1]届出義務違反に対する制裁金が10倍以上となったことが重要である。また、改正案では違反があった場合の原則、情状が厳重の場合の制裁金規定が分けて規定されており、情状が重い場合は原則の5倍以下の制裁金が課されうる。更に、独占的協定(カルテル)[2]については、当事者となる事業者だけでなく、事業者内で独占的協定を主導した個人についても、制裁規定が設けられることとされている。

 

違反行為

現行法

改正案・原則

改正案・情状が厳重な場合

企業結合届出義務違反

50万人民元以下

競争の制限・排除効果が認められる場合:直近年度の売上額10%以下の制裁金

競争の制限・排除効果がみとめられない場合:500万元以下の制裁金

競争の制限・排除効果が認められる場合、認められない場合それぞれについて、原則の5倍以下の制裁金

独禁法に関する当局の調査・審査の拒絶・妨害等

個人 :10万元以下

事業者:100万元以下

個人 :50万元以下

事業者:直近年度の売上額1%以下の制裁金(売上がない場合:500万元以下)

個人及び事業者について、それぞれ原則の5倍以下の制裁金

水平・垂直の独占的協定の合意・実施

合意を実施した場合

:直近年度の売上額の1-10%の制裁金

 

 

直近年度の売上額の1-10%の制裁金(売上がない場合:500万元以下)

 

原則のそれぞれ5倍以下の制裁金

合意があったものの実施しなかった場合

:50万元以下

300万元以下の制裁金

原則の5倍以下の制裁金

事業者内の個人責任

:規定なし

100万元以下の制裁金

原則の5倍以下の制裁金

市場支配的地位の濫用

直近年度の売上額の1-10%の制裁金

 

直近年度の売上額の1-10%の制裁金

原則の5倍以下の制裁金

 

⑵ その他の重要な改正点
  • 企業結合審査について、事業者が届出要件となる売上額の基準を満たさない場合であっても、競争を排除・制限する効果があると認められる場合は企業結合を実施することができず、競争当局は調査を行うことができることが明文化された(改正案第26条第2項)
  • 企業結合審査の審査期間[3]のカウントの停止に関する規定が設けられ、①事業者が規定に従った資料等を提出しない場合、②重大な影響を及ぼす新しい事実及び状況が生じた場合、③問題解消措置に関する検討が更に必要となる場合は、競争当局が書面で通知することにより審査期間のカウントを停止することができる(改正案第32条)。
  • 水平的及び垂直的独占的協定に関するセーフハーバー規定が設けられ、事業者が競争当局の定める市場シェアを下回ると証明できる場合は、カルテル合意に競争を排除・制限する効果があると当局が証明できる場合を除き、違反にならないとされる(改正案第19条)
  • 垂直的独占的協定(再販売価格の拘束等)について事業者の反証を認める規定が設けられ、事業者が当該合意は競争を排除・制限するものではないと証明できる場合、違反にならないとされる(改正案第17条第2項)
  • プラットフォームの規制強化が明文化され、市場支配的地位を有する事業者がデータ、計算方法、テクノロジー及びプラットフォームルールを利用して他の事業者を不合理に制限する場合は、市場支配的地位の濫用にあたるとされる(改正案第22条)

 

3 独禁法下位法令の改正

 中国独禁法本体の他にも、2022年4月26日に、市場監督管理総局は同局の2022年立法計画の中で、以下の独禁法の下位法令も年内に改正を行うことを公表している。具体的な改正案は未公表であるが、例えば「国務院の企業結合の届出基準に関する規定」の改正では、届出基準となる売上高[4]が変更される可能性もあり、独禁法本体の改正と併せて留意する必要がある。

  • 国務院の企業結合の届出基準に関する規定[5]
  • 独占的協定禁止暫定規定[6]
  • 市場支配的地位の濫用行為禁止暫定規定[7]
  • 知的財産権の濫用により競争を排除・制限する行為に関する規定[8]
  • 企業結合審査暫定規定[9]

 以 上

 


[1] 中国語:经营者集中

[2] 中国語:垄断协议

[3] 現行法では第一次審査が30日、第二次審査が90日、第二次審査の延長(第三次審査とも呼ばれる)が60日と定められており、審査期間のカウントを停止できる規定はない。

[4] 現行法の基準は以下の通りである:
①企業結合を行う全ての事業者の、直近会計年度における全世界の売上高の合計が100億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の直近会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える場合、又は、

②企業結合を行う全ての事業者の、直近会計年度における中国国内での売上高の合計が20億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の直近会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える場合

[5] 中国語:国务院关于经营者集中申报标准的规定

[6] 中国語:禁止垄断协议暂定规定

[7] 中国語:禁止滥用市场支配地位行为暂行规定

[8] 中国語:关于禁止滥用知识产权排除,限制竞争行为的规定

[9] 中国語:经营者集中审查暂行规定

 

 


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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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